VIRGIN TRIUMPH | 出会い、そして再会のロシア 山田健さんのコラム

出会い、そして再会のロシア

  • 掲載日/2015年09月25日
  • 写真・文/山田 健

旅の醍醐味と言えば、出会い、そして再会だ。旅での素敵な出会いは、かけがえのない財産になる。今回はロシア編を紹介しようと思う。

出会いとは不思議なもので、1日ずれていたり、違う道を通ると、その出会いは訪れない。その時その瞬間にしか訪れないものだ。だから、出会いは大事にしている。

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どっちに行くか、出会いは自分の決断した結果。たとえ別の決断をしても、別の出会いがある。

ロシアでの出会いのきっかけ

ロシアではさまざまな出会いやトラブルがあった。以前『予定通りにいかないからこそ旅なのだ』でも書いたように、上陸初日にクラッシュ、そしてロシア、エカテリンブルグにあるディーラーを目指していたときに、今度は雨でスリップ。肋骨が折れ、バイクも体もぼろぼろになりながら走った。

シベリアのイルクーツクを過ぎた辺りだろうか。1人のロシア人ライダーとすれ違った。彼は引き返して来て、片言の英語とロシア語で会話したのを覚えている。彼はこの先にあるケメロボという街に行けばバイクポストというのがあって、バイカーならフリーで泊めてくれて、WiFiもあるし、ちょっとしたバイクのメンテナンスもやってくれるだろう、と言ってくれた。

このバイカーに出会わなければ、バイクポストにも行かなかっただろうし、“ボリス”という人物にも出会わなかっただろう。クラッシュで凹んでいた心に、ひとつの目的地が出来たのは良かった。ぼろぼろの僕にはモチベーションになった。

バイクポストとボリスとの出会い

2回目のクラッシュで、正直なところ旅は終了したかと思った。それがなんとか周りの人の助けがあって、ケメロボという街まで辿り着いた。“そこにあるだろう”程度の不確かな場所を目指して、ケメロボの街外れを走る。本当にあるのか心配になった。

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住宅地の道路は舗装されていない。看板も無い。
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何軒か外から覗いていると、バイクが置いている家を発見。

塀の隙間を恐る恐る覗いてみると、バイクが置いてあるのが見えた。“ここだ”と感じた。中には上半身裸でタトゥーの入った屈強な男たちが3人いた。正直怖い。けれどここまできたのだからと、隙間から声を出して手を振る。ロシア語も話せないので“バイクに乗っている”と、ハンドルを握っているジェスチャーをした。そうしたら、中の人たちが“来いよ”って招いてくれた。良い人たちだった。

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ここがバイクポスト。個人宅の2階で寝泊りさせてもらった。
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中庭にバイクを停めさせてもらった。

ここでは本当に良くしてもらった。バイクの修理、宿泊、ヘアカット、食事…と、すべてのことをしてもらった。バイクポストに着いたら、まずウォッカで乾杯。途中、ビールが無くなって買い出しに行くと、ロシアではビールの量り売りをしていた。だから自分のペットボトルを持っていく。とてもエコだと思う(もちろんすべてが量り売りではなかったが)。それから、シャシリクと言うロシアンバーベーキューは格別においしかった。

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ボリスたち。一見怖いがとても親切。右端の人物がボリスだ。体が大きい。彼はカリニングラードからウラジオストクを往復して帰る途中とのことで、モスクワ方面へ出て行った。

ボリスは英語を、僕はロシア語を話すことが出来ないので、スマートフォンのグーグル・トランスレーターを使ってなんとか会話した。彼は翌朝早く出ると言う。早朝、みんなは寝ていたが、目が覚めるとボリスが出発直前だった。なぜか分からないけれど、連絡先にと電話番号を教えてくれた。

僕は“ダブルビザ”というロシアに2回入国できるビザを取得していたので、ボリスの話にあったカリニングラードへ行くことに決めた。カリニングラードはロシアの飛び地なので、一度ロシアを出国しなければならないのだ。ダブルビザを取得しておいて良かった。

カリニングラードへは、バルト3国のリトアニアから入った。ロシアで出会った人に、リトアニアのクライペダからカリニングラードへ行けるということを教えてもらっていた。クライペダからカリニングラードまでは砂洲(さす)という地形の細長いビーチがある。後に分かったことだが、ここは世界遺産にもなっていて、バルト海とは思えない南国イメージの綺麗なビーチだった。

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クルシュー砂洲の地形(wikipediaより)。
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クルシュー砂洲に立つ。

カリニングラードにはなんとか入国出来た。リトアニア側では、パスポートとロシアンビザを見せただけ。後にカリニングラードからポーランドへ行くとき、リトアニアの出国スタンプが無くて一苦労したが…。ロシア側では入国手続きも自分で行なった。サハリンでの経験が役に立った。同じようなドキュメントに記載するだけ、意外と簡単だ。

カリニングラードで出会った人は、英語もあまり通じない。WiFiスポットも分からない。なので、街の中心部を目指した。どこが中心かも分からないが、ロシアの街は大体中心に広場があって、レーニン像が立っていることが多い。

何とか広場を見つけてふらふらしていると、バイク乗りが集まっていた。参考にはならないかもしれないが、集団へ突入してみた。片言の英語で話す。カリニングラードのモーターサイクルクラブ(MCC)の集まりだった。

「WiFiスポットを探して泊まれそうなところを探そうと思うんだ。ケメロボで会った人に会いたいんだ」

ここでもロシアントラディショナルを味わう。近くのカフェでロシアンフードを奢ってくれた。泊まるところが無いなら、クラブハウスに泊まっても構わないと言う。

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広場でMCCのみんなと。

クラブハウスがあるという、50kmほど離れたバルチースクというロシア最西端の街へ向かった。ロシア艦隊の基地がある街で、数年前まで外国人の立ち入りが禁止されていたそうだ。

シャワーを浴びるため、メンバーの家に連れて行ってもらったが、温水が出る時間は街で決まっているらしい。シャワーを浴びてクラブハウスに戻る。クラブハウスで泊めてもらった翌日、ロシア特有の“レギストラーツィア”という滞在登録、そこに滞在していたという証明を受けるため、バルチースクのホテルに連れて行ってもらったが、軍の基地が近いという理由で外国人は泊まれないらしい。ロシア艦隊の基地が近いことを改めて実感した。

もう1泊クラブハウスに泊めてもらった。MCCのプレジデントであるワディムは25歳くらい。とても若いのにリーダーシップがあり、メンバーから信頼されていた。ワディムの彼女は英語が出来たので助かった。彼女が通訳となって、街を案内してもらったり楽しいひとときを過ごした。

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バルチースクにあるクラブハウス。
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バルチースクのモニュメントの前で。

本当に繋がるのか分からなかったが、ボリスから教えてもらった電話番号を見せたら、ワディムがボリスに電話してくれた。ボリスに繋がった。覚えていてくれたらしい。なんと明日、クラブハウスに迎えに来てくれるらしい。

“出会いは、自分を成長させてくれる”

ボリスは約束どおりクラブハウスまで来てくれた。出会ってから6,000kmは走っただろうか。遂に再会だ。初対面のときと変わらず優しく出迎えてくれた。ボリスとカリニングラードへバイクを走らせる。着いたところはボリスの家ではなく、彼の経営しているジムだった(ロシア語が分からないので推測だが)。若いときの彼の写真を見せてもらったら、なんとボディービルダーだった。どおりで体が大きいと思った。ボリスの彼女も駆けつけてくれた。

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ボリスと彼女とミュージアムにて。翌日はきのこ狩りや砂洲にも一緒に行った。彼女は若くて美人! うらやましい!

ロシアではガレージだけ集まっている場所があって、そこを借りて車やバイクなどを保管している。バイクをガレージに置き、ジムで寝泊りして、ウォッカを浴びるように飲みながらロシアンバーベキュー。言葉は通じないが楽しかった。

ロシア人はアルコールに強いと思う。ウォッカをショットで飲んで、またすぐに次のウォッカが出てくる。ほっとしている暇など無い。記憶が無くなって、翌朝起きるとジムの部屋で寝ていた。ソファもベッドのようにしてくれていた。僕が“汚した”ジムの床は、ボリスが掃除してくれたらしい。

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集まったみんなで乾杯。
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弾けない楽器を持ちながら。

ボリスと再会出来てつくづく思う。バイクの旅では、出会うまでの過程はもちろん、他人があってこそのコミュニケーションから相手を知り、自分を知る。見て、話し、感じることに意味があるのだと思う。言葉が通じなくても、相手の表情を見れば嬉しいとか楽しいぐらいは分かる。人の気持ちを汲み取ることで自分を知り、成長させてくれる。そんな気がする。出会い、そして再会。本当に良かった。

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ボリスは最後に、ポーランド国境まで送ってくれた。ありがとう。

旅は多くの人と出会い、色々な経験をさせてくれる。旅という非現実的な空間で、凝縮された体験が出来る。そのときその時、自分で決断し、人と出会い、自分と向き合う旅は続いていくのだ。

あ、ボリスはカリニングラードからウラジオストクを3週間くらいで往復したそうです。1日1,400kmくらい走るのだとか。スゴ過ぎです。また、再会できる日を楽しみにして。

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