VIRGIN TRIUMPH | 6-23 お勧めはトライアンフ・T100 立花 啓毅さんのコラム

6-23 お勧めはトライアンフ・T100

  • 掲載日/2018年12月07日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

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トライアンフ社は面白いもので、同じバーティカルツインの500ccエンジンを3機種も持っていた。一つ目はエドワード・ターナーが最初に設計した1937年のスピードツインで、世界に衝撃を与えたエンジンだ。2番目が前章のアルミエンジンのトロフィーTR5。3番目が今回ご紹介する1957年に発表されたT100である。

このT100のボア×ストロークは、初期の63×80㎜ではなく、T90(350cc)のボアを10.75mm拡大した69×65.5㎜のショートストローク。一般的に英国車はロングストロークが多く、ヘッドが小さいためバルブも小さい。そのためパワーが出にくいが、このT100はバルブ径が大きく、しかも65.5㎜のショートストロークだ。そのためチューンして9000rpm回してもピストンスピードは19.65m/secでまだ余裕がある。またアルミヘッドのためノッキングも起こしにくく、かなりのパワーを出すことができる。

勿論、それ以外にT100の良いところは、車体が兄貴分のT110やT120ボンネより、ひと廻り小さく、ホイールベースが1360mmと短い。そのため機敏で乗って楽しい。また振動が少ないのも良いところだ。

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写真のT100は、私が日々の足に使うためアップライトポジションのダートトラッカーに仕立てたものだ。まずエンジンのパンチを高めるためにポートをIN、EXともスナップ型に拡大。スナップ型とはポートをシリンダーに対して垂直になるようにし、ピストンの上下動に対して吸排気ガスがスムーズに出入りするようにした。この効果は非常に大きい。

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次にキャブの口径を26φから30φに拡大し流速を35%低減した。EXパイプは排気脈動の効果が出るように計算し、集合タイプを作成。また1本にまとめた方がレーシーで格好イイ。カムや圧縮比を変えなくても、これだけでトルクもパワーも大きく向上し、別エンジンになったように感じる。

車体系では、徹底した軽量化を図り30.5㎏も削減。フル装備にもかかわらず、実質128㎏に抑えることができた。バイクは軽いことが一番だ。加速性能は勿論のこと、ブレーキもコーナリングスピードも高まるだけでなく、軽いバイクは乗っていて楽しい。

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主なところは、余計なボス類を削り落とし、フェンダーを前後アルミへ。リムはアクロンに組替。種々のブラケットやトルクロッドもアルミの一品加工。ブレーキロッドも6φのアルミ棒で作った。ボルト類はすべてテーパーキャップボルトと中空パイプボルトに替えた。シートは自分でデザインし、質感の高い染めの牛革で作り超軽量なのものとした。「美は細部に宿る」ため、こういった詰めで大きく変わる。しかしT100にも弱点があり、それは車体剛性が低いことだ。そこでエンジンヘッドとフレームをアルミのブラケットで結合することにした。

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フロントサスはダンパーオイルを硬めのエンジンオイル(280cc)に換えることで、かなりしっかりさせることができた。リアは車高調とプリロード調整付に変更。そして最後の塗装はウレタンで仕上げた。

これらによって軽快で引き締まったスタイルに仕上がったと思う。性能はノーマルでも39hpを発揮しているが、それを大きく上回ったはずだ。

話は変わるが、トライアンフ社は低迷した第1世代から第2世代に移り息を吹き返したが、そのきっかけは1937年のスピードツイン500㏄によってである。とは言っても倒産した会社を立て直すため貧乏経営が強いられ、大きな投資はできなかった。

そこでスピードツインは、それまでの250ccエンジンを2つ組み合わせ、設備投資とコストを抑えた。高性能な2気筒でありながら、エンジン幅は単気筒のタイガー90と同じで、重量は2.2㎏も軽く、価格は変わらなかった。

このエンジンは今と変わらないクロスフローの吸排気と半球形の燃焼室を持ち、バルブサイズもインレット側が大きくバランスが取れている。それまではエキゾーストバルブの方が大きく設計されていた。注目すべきはアルミコンロッドの採用で、後のBSA・A10などにも採用されることとなった。

またターナーは高性能エンジンにするツボを押さえていたようだ。高性能というは、高回転でギンギン回るというのではなく、トルクの占める面積をいかに広くするかだ。またピックアップの良いフィーリングも群を抜いていた。贅肉を削り落とし、軽量コンパクトにまとめたエンジンには機能美がある。これらにはターナーのたぐいまれなる設計力とセンスが伺える。

このエンジンが如何に素晴らしいかは、その後50年間も、多くのトライアンフへ展開されただけでなく、今もクラシックバイクのレースで圧倒的に速いことからも基本性能の高さが判る。

当時のバイクメーカーにはデザイナーなどはいず、ほぼ一人の設計者が行っていた。そのため必然的に機能的なスタイルになるが、一方、一個人の力量やセンスがそのまま商品となったため駄馬が多かったのも事実だ。

しかし中にはベロセットなど惚れ惚れする駿馬が何頭かいた。その中の筆頭は言うまでもなくトライアンフだ。そういった優れたバイクだからこそ、50年間もの長い間、世界の頂点に君臨し続けていたのだ。

『Triumph Tiger100』英国製 最終型1957~72年
  • 全長=2115mm
  • 全幅=673mm
  • ホイールベース=1360mm
  • 車重=158.5を128kg(▲30.5kg)
  • エンジン=空冷OHV 490cc
  • 内径×行程=69×65.5mm
  • 圧縮比=9.0
  • 出力=39hp/7400rpm
  • 最高速度=150km/h
  • サスペンション=F:テレスコピック R:スイングアーム
  • タイヤサイズ=F:3.25-19 R:4.00-18

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