VIRGIN TRIUMPH | 番外編 3-3 ゴールドスターでもお立ち台の真ん中 立花 啓毅さんのコラム

番外編 3-3 ゴールドスターでもお立ち台の真ん中

  • 掲載日/2016年04月08日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

2016年のLOC(レジェンド・オブ・クラシック)の開幕戦が、3月27日につくばサーキットで行われた。じつは昨年、BSAゴールドスターはクランクシャフトがボッキリ折れてしまったので、1年ぶりの復帰である。

立花啓毅さんのコラムの画像

クランクシャフトが折れるなんて考えられないが、組み立て式のクランクで部分的に金属疲労が起きていたようだ。早速、シャフトと固定リベットを英国から取り寄せることにした。同時に11.5のハイコンプ・ピストンとスリーブ、それとワイドオープンのカムもお願いした。カムはリフトや開角の違うものが数種類用意され、好きなものが選べる。

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エンジンを降ろして裸のフレームをじっくり眺めると、なんとスイングアーム全体が右に曲っているではないか。さらにピボット部分が弓型に変形している。そのためピボット部からシャフトを抜くことが出来ずに一苦労した。

つくばのコースは右コーナーが多く、コーナリングGも高いため、ヤワなフレームでは持たなかったのだろう。BSAのフレームは、スイングアーム以外も剛性が低く、特に捩じれ剛性に問題がある。原因は、ヘッドパイプからピボット間が、最近のフレームのようにダイレクトに繋がっていないためだ。

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そこで各部に補強を入れ、ピボット部のガセット板厚を2倍の8mmにした。スイングアームも三角形のトラスで補強を入れた。これで大分、剛性が上がったはず。そのためタイヤもグリップの高いコンチネンタルに履き替えた。

入念なシェイクダウンを行うため、レース前に袖ヶ浦サーキットに持ち込んだ。エンジンのパワーは大きく向上し、マトリックスで作ったクロスミッションとの相性もいい。

フレームの剛性は予想以上で、前後のバランスもなかなかだ。コーナリングスピードが格段に向上したので、フロントサスペンションのバネレートを高め、それに合わせてバンパーの減衰力を調整した。

バネレートの上げるのはいたって簡単で、線径と巻き数を測り、下記の式で計算する。今回はバネレートを0.608から0.643に上げるため、バネを2巻きカットした。

K = 1000d4/D3n

  • ※K:バネレート、d:線径、D:バネの直径(センター間)、n:巻き数

こうやって完璧に準備したつもりでも、クラシックバイクは、何らかのトラブルに見舞われる。それはそうだ。1956年のバイクをカリカリにチューンし、全開でぶっ飛ばすのだからトラブルが起きない方がおかしいくらいだ。

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しかし今回は違う。トラブルの出そうなところは事前に手を打ち、シェイクダウンもしっかり行なった。もちろんメカニックも、以前ご紹介した大ベテランの横川さんと竹田さんがついている。彼らはどんなトラブルが起きても何とかブツを集め、応急処置を施し、走れるようにしてくれる。

我々が出走するLOCのレースは5クラスが同時に走る。最も速いクラスは、モトグッチやBMWのオープンクラス。次はCB750、CB500などの4気筒軍団。その次は650のトライトンクラス。最後が我々のセニアAで最も遅いクラスだ。

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とは言ってもシーリーG50やノートン・マンクスのワ-クスレーサーが多く、そこに市販スポーツのゴールドスターで挑戦する図式である。性能差は大きく、今までは常に苦戦を強いられていた。

しかし今回は違う。シーリーG50や上位クラスのトライトン勢を尻目に、CB500フォアと抜きつ抜かれつの大接戦を演じた。ロングストロークのOHV500シングルが、OHCの4気筒と互角に渡り合ったのだ。こんなに痛快なことはない。

コーナーではこちらの方が速く、出口の加速でやや離されるが、最高速はほぼ同等だ。ターンインのし易さは、現役のCBR250にレーシングタイヤを履かせたかのようにスムースで、コーナリング速度も高い。

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今回のベストタイムは1分19秒027で、なんと自己ベストを4秒近くも更新した。しかし問題は運転手にあり、マシンはもっと行きたがっているが、そう出来ないところにある。

世の中楽しいことは色々あるが「自分で作ったマシンで優勝する」こんなに楽しいことは他にはないと思う。

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一方、息子の方はトライトンで優勝はしたものの、狙っていた12秒に届かず落ち込んでいる。親子で明暗がはっきり別れた開幕戦だった。

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