VIRGIN TRIUMPH | 番外編-8 世界最高峰の技術バトルmotoGP 日本グランプリ 立花 啓毅さんのコラム

番外編-8 世界最高峰の技術バトルmotoGP 日本グランプリ

  • 掲載日/2018年10月29日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

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今年も世界選手権motoGPの応援にモテギに向かった。昨年の大雨とは違い雲一つない快晴だ。発表では気温24℃、路面温度36℃というが、強い直射日光は真夏のようだ。そのためか芝生席も人で溢れ、女性客が多いのも目立った。

参戦する日本人選手はスポットを含め計9名。motoGPクラスは日本中の期待を集める中上 貴晶(LCR HondaIDEMITSU)と中須賀 克行(Yamahalube Yamaha Factory)の2名。Moto2は長島 哲太。Moto3には真崎 一樹、佐々木 歩夢、鈴木 竜生、鳥羽 海渡、岡崎 静香、福嶋 祐斗の6名である。

観戦場所は昨年と同じくパドック裏の3コーナーに陣取った。わずか数メートル先でバトルが展開され、眼を横に向けるとブリッジ出口から最終コーナーまでが見える。こうやって良い場所に陣取っても、見えるのは眼の前を通過する一瞬だけだ。それでも解説付きのTVとは大違いで、地響きするほどの轟音や独特の排気ガスの臭いがある。眼がチカチカもするが、これがTVとの違いである。

motoGPは1周目からトップに出たドヴィツィオーゾの後ろに6番手スタートのマルケスが付き、前戦のタイGPと同様に終盤で仕掛けてトップを奪った。マルケスはこの優勝で残り3戦を待たずして3年連続5回目のシリーズチャンピオンに輝いた。

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一方、ロッシ選手は、9番手スタートで苦戦を強いられながらも何とか4位でゴール。ヤマハは1年以上も不調が続き、ビニャーレス共に低迷している。しかしロッシには世界中に熱狂的なファンが多く、ここモテギでも最も愛される選手だ。明るいキャラというだけでなく、心の澄んだ実にいい眼をしている。これが愛される理由であろう。

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私が応援しているのは、ロッシと同じくヤマハのザルコだ。ザルコはかなりの親日家で、ヘルメットには右翼団体の総長を思わせる旭日旗が描かれている。このデザインは、当時、速かった日本人ライダーをリスペクトして採用したという。彼はサテライトのテック3だが、ファクリーより速いのだから凄い。

このテック3はmoto2にも2台エントリーし、自社のフレームにKYBのサスを取り付けている。KYBのダンパーは、微小ストローク時のフリクションが小さく、そこでの減衰を高めている。これは難しい技術だが、そこを確立しているのだ。

また来年からmoto2のエンジンは、ホンダのCBR600RRからトライアンフのストリートトリプル用3気筒765ccに変更される。出力は133ps・80Nmと強力になり、すでに実車での走り込みが行われているという。これによってレースがどう変わるかも興味深い。

motoGPのマシン性能はとてつもなく、各社とも240ps以上を発揮し、車重は157kgで最高速はイタリア・ムジェロでは350km/hを超えている。ライダーはこれをコントロールするのだからまさに超人である。

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レギュレーションを見てみると、排気量は1,000cc、気筒数は4気筒まで、シリンダーボアは81mm以下、燃料は22リッターまでとなっている。計算してみると、1気筒が250ccで、ボアを81mmにするとストロークは47.36mmになる。このスペックでピストンスピードを限界に近い22m/secまで上げたとすると、最高出力の回転数は14,000rpmとなる。するとどこのメーカーも14,000~15,000rpm近辺で240ps以上を発揮しているものと思う。

因みにエンジン出力は、下記の式で算出する。これでお判りのように出力は回転数に比例して高まるため、各社は高回転化にしのぎを削っているわけだ。

出力(PS)=回転数(N)×トルク(T)/716

この式から逆算してトルクを求めると、motoGPのエンジンは12.3kg-mものトルクを1,4000rpm前後で発生させていることも判る。このリッター当り12.3kg-mという値は、内燃機関の限界である。残る技術はトルクが占める面積を如何に大きくするかに掛かっている。ドゥカティがコーナーの出口からストレートで速いのは、恐らく他車よりトルク面積が大きいからだろう。このトルク面積の大きさが、ドゥカティ、ホンダ、ヤマハの順であろうと推測する。

こういった性能を直4で展開するか、またはV4で行うかでメーカーの特色が出てくる。直4はヤマハとスズキの2社、V4はホンダ、ドゥカティ、アプリリアの3社に分かれている。それは互いにメリット、デメリットがあるからだ。

まず出力に影響するフリクションロスを見ると、抵抗の大きいクランク軸受けの数は、直4では5か所だが、V4は3か所。因みにVツインは2か所で最もフリクションが小さい。しかし単気筒容積が500ccとなり、またストロークが増えパワーが出せない。

14,000rpmも回すとなるとバルブスプリングは、かなり強化する必要があり、それに比例し抵抗も大きくなる。そのためドゥカティはスプリングを使わず、戻しもロッカーアームで行うデスモドロミックを長年採用している。それ以外のメーカーはPVC(ニューマチック)を採用し、カムを持たず圧縮空気で瞬時にバルブを開閉する。そのためPVCはバルブの開口面積が広く取れパワーに直結する。

デスモドロミック機構はドゥカティが1920年代に開発したもので市販車にも使われている。しかしロッカーアームが1気筒当り8個必要で4気筒では32個もの調整が必要となる。一方、PVCはルノーのF1が最初に採用したもので、圧縮空気はボンベに充填され1回のチャージで200km走行できる。

燃費規制も厳しく、使用できる燃料はワンレースで22リッターだ。そのためパワーと燃費の両立も大きな課題である。レースでの走行距離はモテギの場合、4,801m×24周=115kmとなる。そこを21Lで走ると、燃費は5.5km/L以上が条件となる。リッター当り240psものエンジンでこの燃費を確保しなければならない。

エンジンだけでなく、空気抵抗も非常に大きなテーマで、カウルの形状を決めるため各社は風洞実験を繰り返している。空気抵抗は速度の2乗に比例し、速度が上がれば2次曲線で抵抗が増えるからだ。

最高速は単純に空気抵抗とエンジン出力で決まり、出力が低くても空気抵抗が少なければスピードは出る。しかしレースというのは最高速が速くてもタイムに直結しない。その分、制動に時間が掛かるからだ。むしろトルクフルで扱いやすい特性の方が良いタイムが出ることが多い。

また空気抵抗(D)=抗力係数(Cd)×前面投影面積(A)×速度(V)の2乗で決まるため前面投影面積を小さくすることが必要。その点ではV4の方が有利になる。また最近のウイングは効力係数も前面面積にも不利になるため最高速は下がるが、タイヤの接地圧を上げ、コーナリングスピードが上がるため採用するようになった。

それ以外では直4の方が有利な点が多い。直4はエンジンの配置に自由度があり、クランク軸を前に出せるためフロントに荷重を掛けやすい。また重量的にやや有利で、サービス性にも優れているといえる。

というようにmotoGPは世界最高峰の技術バトルで、本社ではエンジンやシャーシ、カウルなどを常に開発し、実車テストを繰り返し、効果のあるものを現場に投入している。

それを乗りこなすライダーも半端ではない。しかも1、2週間おきに世界を転戦し、激闘を繰り広げるのだから理解できないほど過酷さがある。

我々のような草レースでさえ、今週はフジ、来週はツクバでは身体が持たない。まさに彼らは超人以外の何者でもないのだ。

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