VIRGIN TRIUMPH | 2-2 スピードツインエンジン 立花 啓毅さんのコラム

2-2 スピードツインエンジン

  • 掲載日/2015年03月06日
  • 文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

トライアンフは映画への登場もあって世界から憧れの存在となった。しかしそのエンジンは1937年にエドワード・ターナーによって誕生したもので、今から80年近くも前のことだ。

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スピードツイン(1938)

彼はまだシングル全盛の時代に『スピードツイン』用として排気量500ccの2気筒エンジンを設計した。設計の主眼は生産性を最優先し、最小限の投資で高性能エンジンを開発することだった。そこで彼は、それまでの250ccエンジンをふたつ組み合わせ、設備投資とコストを抑えた。

これが第2世代トライアンフの始まりである。

設計時に生産性やサービス性を考慮するのは、日本では当たり前の話だが英国ではホワイトカラーが設計し、組み立てやサービスはブルーカラーが行なっていた。そのためサービス性などは配慮しなかった。英国車は構造がシンプルにもかかわらず組み付け性やサービス性が非常に悪い。とくにジャガーEタイプはこれだけで1冊の本が書けるほどだ。参考までに記すと、Eタイプのパーキングブレーキパッドを交換しようとした時だ。リアブレーキはインボードディスクで、デフの両サイドにローターがある。そこにメインのパッドと並んで小さなサイドブレーキ用が付いている。しかし下からも上からも手が入らない。

で、マニュアルを見ると「リアのサブフレームと一緒にデフを降ろす」と書いてある。サブフレームを降ろすには、閉断面のトンネルからペラを抜き、ダンパーが4本も付いているサスペンションを外さなければならない。これではアライメントも取り直しになる。

あまりにひどいのでマニュアルを読み直すと、なんと「パーキングブレーキのパッドを交換するのは運転が下手である証拠だ」と書いてある…。いい加減アタマにきたが文句を言う相手もなく、黙々と作業したことを覚えている。ジャガーはデザインを最優先し、高性能車を低価格で販売したため、そのしわ寄せがサービス性と信頼性に影響していたのだろう。

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スピードツイン(1946)

話をターナーに戻そう。彼の凄いところは、高性能な2気筒でありながら、単気筒のタイガー90より2.2kgも軽く、エンジン幅は同じで、価格も変わらなかったことだ。

スピードツインのボアストロークは63×80mmで、排気量500ccで360度クランクを持つ。注目すべきはアルミコンロッドの採用である。当時はアルミコンロッドがよく使われ、その後のBSA A10もそうだ。

最大出力は27bhp/6,300rpmを発揮し、150km/hの最高速を誇った。このエンジンが如何に素晴らしいかは、その後50年間、全てのトライアンフへ展開され、さらには世界の2輪車業界に“バーティカルツイン”という新たな世界を示したことでも判る。

また彼は、軽量コンパクトでありながら高性能エンジンとするツボを押さえていたようだ。高性能というのは、高回転でギンギン回るということではなく、トルクの占める面積がいかに広いかで決まる。このトルク面積を大きくするのが技術力で、この点でもターナーは優れていた。

今のエンジンと全く変わらないクロスフローの吸排気と半球形の燃焼室を持ち、バルブサイズもインレット側が大きくバランスが取れている。それまではエキゾーストバルブの方が大きく設計されていた。

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スピードツインエンジン

さらにスピードツインのエンジンには、贅肉を削り落とした機能美がある。当時の開発にはデザイナーなどおらず、ほぼ1人の設計者が行っていた。1個人の力量やセンスがそのまま商品となったため駄馬が多かったが、中には惚れ惚れする駿馬が何頭かいた。その中の1頭は、言うまでもなくトライアンフだ。そういった優れたバイクだからこそ、50年もの長い間、世界の頂点に君臨し続けていたのだ。

トライアンフで大偉業を成し遂げたターナーだが、それ以前はアリエルに在籍し、OHV 1000ccのスクエアフォアを開発したのは有名な話。その後、アリエルを救世したジョン・ヤング・サングスターと共に、倒産しかけたトライアンフに移り、立て直しに貢献した。

資金の無い中、最初は旧態然とした単気筒車のフレームを作り替え、アップマフラーにしてメッキとカラーリングを施して対応。そのマシンが『タイガー』である。タイガーには70(250cc)、80(350cc)、90(500cc)の3車種を準備した。

90というのは、最高速90マイル(145km/h)を意味していた。また低価格路線を引いたため爆発的なヒットとなり、トライアンフの経営は再び回復した。

その後、彼はスピードツインの開発を手掛けたのだ。

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