【トライアンフ スクランブラー400XC 試乗記】クラスを超越した質感と装備で所有欲を満たす
- 掲載日/2025年10月21日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
写真/磯部 孝夫 取材・文/小松 男

大ヒットとなった400シリーズの次なる刺客オフロード色を強めつつストリート的な仕上がり

トライアンフ・スクランブラー400XCは、英国ブランドの長い伝統を現代のエントリークラスに落とし込んだ新世代モデルである。トライアンフが自社開発した新設計の398cc単気筒エンジン「TRシリーズ」を搭載し、2024年の登場以来、同社の新たな中核を担う存在として注目を集めているスクランブラー400Xをベースにオフロード装備を高める恰好で派生したモデルだ。そして現在は兄弟モデルのスピード400と共に、世界市場におけるトライアンフの裾野拡大を象徴するモデルとして位置づけられている。
「クラシックと冒険心の融合」を掲げ、オンロードの快適さとライトオフロードでの走破性を両立した設計思想を持つ。英国らしい造形美と現代的なメカニズムを融合させたデザインは、単なる小排気量モデルにとどまらず、トライアンフのブランド哲学を凝縮した一台といえる。
普通自動二輪免許で乗れる排気量でありながら、スタイル・性能・質感のいずれもがクラス水準を超え、伝統と革新を体現したプレミアムモデルとして登場したのが、このスクランブラー400XCである。
トライアンフ スクランブラー400XC 特徴
歴史に根ざすスクランブラー精神400XCが継ぐ、伝統と進化の血統

トライアンフのスクランブラー・シリーズは、1950年代に遡る長い系譜を持つ。ロードモデルをベースにダート走行への対応力を高めた“スクランブラー”という発想は、当時のモーターサイクルカルチャーを象徴する存在であり、トライアンフはその中心的ブランドのひとつであった。代表的な「TR6スクランブラー」や「スクランブラー900」、そして現行の「スクランブラー1200XE/XC」まで、その系譜は絶えることなく進化を重ねてきた。
そうした歴史を背景に誕生したのが、現代の普通二輪免許クラスで扱える「スクランブラー400X」である。クラシックな造形と現代的なメカニズムを融合し、幅広いライダーがトライアンフらしい乗り味を体験できるモデルとして高い評価を得た。そして、そこからさらなる派生として生まれたのが「スクランブラー400XC」である。

XCは、Xの設計思想を継承しながらも、より本格的なオフロード性能を追求する仕様として開発された。ロングストローク化されたサスペンション、専用チューニングのエンジンマップ、グリップ性能に優れたデュアルパーパスタイヤなど、細部にわたり走破性を強化。スタイル面でもアルミ製アンダーガードや専用カラーリングが与えられ、より“冒険の道具”としての存在感を際立たせている。
スクランブラー400XCは、トライアンフが伝統の「スクランブラー精神」を次世代のライダーへ伝えるために設計した、高い完成度を誇るモデルなのである。
それでは、スクランブラー400XCに実際に触れた感触をお伝えしていこう。
トライアンフ スクランブラー400XC 試乗インプレッション
堂々たる車格と軽快なハンドリング走る舞台を選ばぬ万能スクランブラー

スクランブラー400XCの実車を前にして、まず感じたのはその堂々たる体躯である。昨年登場し、すでに街で見かける機会が増えたスクランブラー400Xも同様だが、この400XCもまた「400ccクラスとは思えないサイズ感」を備えている。ミドルクラスとは思えぬ存在感と塊感が、所有する喜びを大いに刺激してくれるのだ。

さらに、XCにのみ採用されるクロススポークホイールやフライスクリーン、マッドガードなどが加わり、全体の印象をよりタフでワイルドな方向へと押し上げている。静止状態でも冒険心を掻き立てられる佇まいで、まだ走り出していないうちから心が高鳴る。
エンジンを始動し、クラッチをつなぐ。398cc単気筒のTRシリーズエンジンは、低回転域から豊かなトルクを発揮し、スロットルを開けると軽やかに吹け上がる。それでいてスロットル操作に対するレスポンスは極めて正確で、開けた分だけきっちりとトラクションを後輪へ伝えてくれる感覚がある。制御の正確さと力強さ、その両方をバランス良く備えた印象だ。

また、見た目のボリューム感からは想像しにくいが、フットワークは意外なほど軽快である。ライダーの視点から見てタンク位置が低く抑えられていること、ハンドルバーが自然にアップライトしていること、そしてステップ位置がリラックスした足の開きで踏ん張れること——この三点が相まって、自由度の高いライディングポジションを生み出している。その結果、車体を自分の意志で自在にコントロールできるという安心感がある。

さらに、全体的にオフロード志向を強めたXCでありながら、タイヤサイズはスクランブラー400Xと同じく19インチ+17インチのままとなっている。この判断が、むしろストリートや軽い未舗装路での扱いやすさ、そして軽快なハンドリングの維持に大きく寄与していると感じた。もし仮にフロントを21インチ化していたなら、確かにオフロードでの走破性は向上するだろうが、その分、前輪の立ちが強くなり、コーナリングでの挙動に違和感が生じたはずだ。つまり400XCは、オフロード性能を磨きながらも、あくまでストリートでの快適さと操縦性を中心に設計されている——そう考えるのが自然である。

市街地では軽快かつスムーズに流れ、高速道路でも高い安定性を保ちながら伸びやかなクルージングを楽しむことができる。ワインディングでは切り返しが実に素直で、狙ったラインを正確にトレースできるため、走らせていて非常に気持ちがいい。では、未舗装路ではどうなのか。気になった私は、少しだけオフロードにも持ち込んでみた。すると、これがまた驚くほどコントローラブルなのだ。

正直に言えば、当初はスクランブラー400XCの“オフロード志向を強めた”という触れ込みは、外観上の演出——いわばルックス面での強調にとどまるのではないかと考えていた。ところが実際に走らせてみると、サスペンションストローク量こそ400Xと同等ながら、明らかにセッティングが異なり、前後のタイヤがしっかりと路面をつかむような動きを示す。ダンピング特性の妙か、足まわり全体が路面に追従する感覚が明確で、細かな凹凸をいなす動きも非常に上質だ。この足まわりの仕立ては舗装路でも恩恵があり、クッション性が高く乗り心地が良い。ちょっとした段差や縁石も苦にせず越えていける懐の深さがある。

どんなステージに持ち込んでも一貫して感じられるのは、常用速度域では非常に快適で心地よく、速度を上げていけばいくほどライダーを高揚させる、エキサイティングな走りへと変化していくという点だ。穏やかさと刺激、その両立がこのモデルの魅力である。
スクランブラー400X、スピード400、そして今回加わったスクランブラー400XC——この3モデルによって、トライアンフの400シリーズは着実に充実の度合いを増している。さらに今後、スラクストン400の登場も控えており、その世界観はますます広がっていくだろう。選択肢が増えることはユーザーにとって何よりの喜びであり、どのモデルを選んでも満足できる完成度を備えているのは、やはり英国を代表するプレミアムブランド、トライアンフならではだと強く感じた。
トライアンフ スクランブラー400XC 詳細写真

398cc単気筒TRシリーズエンジンを搭載。ボア89mm、ストローク64mmのショートストロークタイプで、低回転域から力強いトルクを発揮し、スムーズな吹け上がりと正確なスロットルレスポンスを両立。最高出力は40馬力、最大トルクは37.5Nmと十分なポテンシャルを持つ。

フロントは19インチクロススポークホイールにチューブレスタイヤを装着。倒立フォークが路面追従性と剛性を高め、街乗りから未舗装路まで軽快かつ安定したハンドリングを実現。シングルディスク+対向2ピストンキャリパーにより確実な制動力も確保されている。

小型フライスクリーンとアップフェンダー、ヘッドライトガードが装備され、タフでワイルドな表情を形成。丸型LEDヘッドライトとウインカーにはLEDライトが採用されクラシカルな印象を残しつつ、モダンなスタイルも併せ持つ冒険的フェイスとなっている。

脱着可能なラバーパーツを備えるステップバー。ラバーパーツを外せばブーツ足裏のグリップ性と操作感を高める設計だ。舗装路での安定感はもちろん、未舗装路でもペダル操作の微妙な入力まで路面に伝えやすく、オフロード性能に貢献している。ステップのセット位置はやや低めの印象。

リアは17インチホイールにデュアルパーパスタイヤを装着。スイングアームは軽量かつ剛性の高い両持ちタイプを採用し、ロングストロークのプリロード調整式モノショックサスペンションと相まって路面追従性を向上。舗装路でも未舗装路でも安定した走りと快適な乗り心地を両立している。

シートは835mmでやや高めの設定。未舗装路走破性を踏まえ足つき性はややスポイルする格好だが、割と軽量なので、ビギナーでも安心感はあるだろう。程よく厚みを持たせたフラットなデザインで、街乗りでもオフロードでも体重移動がしやすく、スクランブラーらしく自由度は高い。

アナログスピードメーターと小型LCDディスプレイをハイブリッドに採用。エンジン回転数、燃料残量、ギアポジションなどの情報を直感的に表示し、クラシックなデザインと現代的な機能性を両立。視認性と操作性に優れ、ライディング中の情報確認が容易である。

丸みを帯びた形状がいつみても飽きさせることない燃料タンク。容量は13リットルで燃費も良く、ロングツーリングも十分にこなしてくれる。車体色はイエローの他、ホワイトとグレーが用意されている。

高めにセットされたハンドルバーは高いアイポイントをもたらし快適なライディングを実現。スイッチボックスもシンプルかつ操作性が良く好印象。ブッシュガードも標準で装備される。

コンパクトなLEDテールライトはシャープなデザインで後方からの視認性を確保。パッセンジャー用のグリップバーはシンプルながらしっかり握れる形状で、タンデムライドも快適。ライセンスプレートホルダーはフローティング構造で、フェンダーの役割も兼ねる設計だ。

シングルエンジンながら二本出しとされた軽量ステンレス製サイレンサーは、コンパクトながら鼓動感をしっかりと伝える迫力あるサウンドを発生。スクランブラーらしくアップセットされており、オフロード走行でも地面とのクリアランスを確保する。
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