【トライアンフ ボンネビル T120 試乗記】これぞ“ボンネビルの完成形” 現代技術で磨かれた正統トラディショナル
- 掲載日/2026年04月23日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 取材・文・写真/小松 男

世紀を超えて愛される理由その裏側にある“進化し続ける伝統”
トライアンフというブランド名から何を連想するかは人それぞれだろう。アドベンチャーセグメントのタイガーシリーズや、スピードトリプルなどのロードスターシリーズ、あるいは圧倒的排気量を誇るロケット3を思い浮かべる方もいるはずだ。しかし、ブランドの象徴という意味では、モダンクラシック、すなわち“ボンネビル”を挙げる声がやはり多数派ではないだろうか。
その理由は単なるデザインの懐古性ではない。20世紀中盤、英国車が世界のモーターサイクルシーンを席巻した時代の記憶が、文化として現在まで継承されていることにある。日本においても、その影響は決して小さくなく、技術的にも思想的にも少なからず痕跡を残している。

そしてそれは、トライアンフ自身にとっても同様だ。ボンネビルは単なるシリーズ名ではなく、ブランドのアイデンティティそのものとして扱われ、長年にわたり進化を重ねながら継承されてきた。その中心に位置するのがT120である。
その名のルーツは、アメリカ・ユタ州のBonneville Salt Flats(ボンネビル・ソルト・フラッツ)で行われた速度記録挑戦にある。1950年代、トライアンフは同地で高い速度記録を樹立し、その名声を背景に1959年、市販モデルとして初代ボンネビルT120を投入した。開発を主導したのは、トライアンフの礎を築いた技術者エドワード・ターナーである。
並列2気筒、いわゆるバーチカルツインはそれ以前から存在していたが、T120の成功によって「ボンネビル=並列2気筒」というイメージが決定づけられたと言ってよい。
こうした背景を持つモデルであるからこそ、「ボンネビルT120」という名称には、メーカーのみならずファンにとっても特別な意味が宿る。そして2026年現在においても、その名を冠したモデルが存在し、進化を続けている事実は、単なる継続ではなく、“価値の更新”と捉えるべきだろう。

トライアンフ ボンネビル T120 特徴
往年の名機という立ち位置でありながら気負わず向き合える存在
つい先日、1963年公開の映画「大脱走(The Great Escape)」を久しぶりに鑑賞する機会があった。第二次世界大戦下、ドイツの捕虜収容所で実際に起きた脱走計画をベースに描かれた作品だが、最大の見どころは、主人公を演じたスティーブ・マックイーンによるバイクでの脱走シーンだ。
マックイーンは無類のモーターサイクル好きとして知られ、劇中の走行シーンの多くを自らこなしている。一方で、象徴的な大ジャンプのシーンについては、保険上の制約もあり、彼の友人でありスタントマンでもあったバド・イーキンスが担当した。なお、イーキンスは、トライアンフのディーラーを営んでいたことでも知られている。
余談だが、劇中車はドイツ軍車両風に仕立てられたトライアンフ TR6 トロフィーで、外観カスタムを手掛けたのはカスタムカルチャーの象徴的存在であるケニス・ハワード(=Von Dutch)だ。

数十年ぶりに観返したが、追い詰められた末にフェンス越えを試みるあのジャンプシーンは、何度見ても手に汗を握る。そして同時に、「やはりトライアンフに乗りたい」と強く感じさせるだけの確かな説得力を持っている。
そうした流れもあり、今回ボンネビルT120の試乗インプレッションを行うことにした。動機だけを切り取れば公私混同に映るかもしれないが、こうした感情の揺らぎこそがプロダクトの本質に触れるための重要な入口になると考えている。

T120は、ボンネビルシリーズの中核であり、現行ラインアップにおけるフラッグシップ的ポジションを担うモデルだ。クラシックな外観を強く残しながらも、仕立ての質感やディテールの作り込みは明確に一段上にあり、シリーズ内でも別格の存在感を放っている。
1959年に登場した初代T120の意匠を色濃く継承しながら、現代の法規や性能要件に適合させつつ進化を続けている点は特筆すべきだろう。“当時の形をそのまま残している”わけではないが、視覚的・思想的な連続性という意味では、極めて高いレベルで再現されている。
それでは、伝統を受け継ぎながら、2026年現在においても新車として選択可能なボンネビルT120の実像に迫っていこう。

トライアンフ ボンネビル T120 試乗インプレッション
まろやかで力強く、気持ち良い
それに安心が加わることで余裕が生まれる
ボンネビルT120は、いつ見ても美しいと思わせる佇まいを持つ。スッと立ち上がるバーチカルツインエンジン、緩やかな曲線を描く燃料タンク、フラットに仕立てられたシート。その全体像は見る者の気持ちを落ち着かせると同時に、タンクサイドの立体エンブレムやスチール製フェンダー、低く構えたキャブトンタイプのマフラーなど、ディテールの質感の高さでも強く訴えかけてくる。
基本構成は従来モデルを踏襲しているが、ヘッドライトにはLEDデイタイムランニングライトを内蔵。伝統的な丸型ヘッドライトの意匠を崩すことなく、現代モデルであることをさりげなく主張している。

車体を引き起こし、エンジンを始動する。歯切れの良い排気音がマフラーから心地よく響く。「これだ」と思わず頬が緩む感覚は、このモデルならではのものだ。軽い操作感のクラッチを握り、1速へとシフトして走り出す。
優しく、それでいて力強い。これこそがトライアンフのバーチカルツインが持つ“味”である。900ccのボンネビルT100と比較すると、1200ccエンジンは明確にトルクの厚みがあり、余裕のある加速を見せる。一方で回転上昇は重々しさを感じさせず、フライホイールマスのバランスにより軽やかさも両立されている。
フロントブレーキはT100のシングルディスクに対し、T120はダブルディスク仕様を採用。ただ単に制動力が強いというよりも、あらゆる速度域からコントローラブルに減速できる“余裕”が与えられている印象だ。

高速道路へと乗り入れ、郊外へ向かう。標準装備のクルーズコントロールは操作も直感的で、長距離移動時の疲労軽減に大きく貢献する。もちろんスロットルを開ければ、厚みのあるトルクが車体を力強く押し出し、追い越し加速も不満はない。

そして2026年モデルの進化がより明確に感じられたのがワインディングロードだ。フロント18インチ/リア17インチという構成は、前後17インチが主流の現代ロードスポーツと比較すると穏やかなハンドリングを想起させるが、実際にはその印象とは異なる。比較的スリムなタイヤサイズも相まって、軽快で素直な旋回性を見せ、ヒラヒラとしたフットワークを楽しむことができる。
エンジン特性も扱いやすく、タイトコーナーから中高速コーナーまで、ライダーの操作に対して自然に応答しながらスムーズに抜けていく感覚がある。

その走りを下支えしているのが、2026年モデルのT120で新たに採用されたIMU(慣性計測ユニット)を用いたコーナリングABSおよびトラクションコントロールなどの装備だ。
正直に言えば、「このようなトラディショナルなモデルに高度な電子制御は不要ではないか」と考えていたのも事実だ。長年さまざまなモデルに乗ってきた経験から、無理のない範囲で限界点を探る乗り方は身についている。

しかし、それでも予期せぬ挙動に出くわすことはある。そうした状況において、電子制御がもたらす“保険”とも言える安心感は想像以上に大きい。ペースを上げた際の不安の低減はもちろん、市街地での路面変化や障害物回避、さらには初見のワインディングでも、その恩恵は確実に感じ取ることができる。
端正なスタイリングを持つこのモデルだからこそ、スマートに乗りこなしたい。そうした理想像を、電子制御デバイスが裏側から支えていると言えるだろう。

映画大脱走のスティーブ・マックイーンのような大ジャンプこそないものの、そのイメージを重ねながらダイナミックな走りを楽しめるのも、このバイクの魅力のひとつだ。
一方でタンデムライドもしやすく、パッセンジャーも快適に過ごすことができるのでデートバイクにももってこいである。
伝統を背負いながら、その最前線に立ち続ける存在として、ボンネビルT120は長く付き合える一台に仕上がっているのである。
トライアンフ ボンネビル T120 詳細写真













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