VIRGIN TRIUMPH | 6-9 やんちゃな『BSA 441 ビクタースペシャル』 立花 啓毅さんのコラム

6-9 やんちゃな『BSA 441 ビクタースペシャル』

  • 掲載日/2017年07月07日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

ヨーロッパではモトクロスやエンデューロも盛んで、小っちゃな町の草レースから世界選手権まで頻繁に行なわれている。

かつてのモトクロス世界選手権では、自国の大きな国旗を胸に付け、国と国が競っていた。マシンもイギリスはグリーブス、チェコのCZ、スウェーデンのハスクバーナ、オーストリアのプッフといった具合に、各国のライダーとマシンが国の名誉をかけて争ったのだ。

そんななか、1964年と1965年の世界選手権で連続優勝を果たしたのが、今回ご紹介するBSA 441 ビクターのワークスマシンだ。

立花啓毅さんのコラムの画像

その後、1970年代に入ると日本メーカーもこぞって参戦するようになった。なかでもスズキに乗る渡辺明は、なんと1978年の世界チャンピオンに輝いたのだ。これはまさに快挙で、小柄の日本人がガタイの大きい欧州人を相手に、年間通じての総合優勝を飾ったのだった。

渡辺明はその後、日本人ライダーのレベルを高めるべく、宇都宮でライディングスクールを開校した。私は開校式に参列した後、当時乗っていたヤマハのWR250Fでスクールに入校した。

周りの顔ぶれを見てみると、大半が現役の全日本選手ではないか。私のような素人に基本のキの字を叩き込むのは分かるが、それを全日本選手も一緒に行なうのだ。

まずスタンドを立てて姿勢のチェック。へっぴり腰には鞭が飛ぶ。これが2時間近くも続いた。昼からやっとコースに出られるかと思いきや、10メートルぐらいの間隔に置かれた2本のパイロンの間を行ったり来たりするだけだ。

ここでは車体の適切な位置に乗り、後輪にトラクションが掛かっているかを厳しく指摘される。こうして基本を叩き込まれ、コースを走れたのは最後の1時間ぐらいだった。

というのも、基本も出来ずにコースを走っても上達しないことを実感させるのが、このスクールの狙いなのだ。これを現役の全日本選手も真面目に行なっている。

そんな渡辺明との付き合いは長く、ときどき呑むこともあるが、じつに気持ちのいい男だ。

話が脱線したが、ヨーロッパではクラシックバイクのモトクロスも頻繁に行なわれ、そこで速さを見せつけたのが、今回のBSA 441 ビクターだ。

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コースはなだらかな丘陵に作られたものが多く、牧草の中を突っ走る。ジャンプも丘に沿って飛ぶためじつに大らかで気持ちがいい。

この441ビクターは、小柄でトルクフルなエンジンのため普段の足にも使えるだろうと考え、手に入れた。いざ手元に置いて見ると、いつものことだが気になるところが多く、ついつい手が動いてしまう。

エンジンをバラすと、バルブガイドがガタガタで、シリンダーも摩耗している。ヘッドを見ると、インレットポートは潰れたような形状で、しかも小さい。エキゾーストも同様である。これではパワーが出ない。

ガイドを打ち替え、オーバーサイズのピストンに交換。ポートは念入りに形状を修正し、排気管も作り直すことにした。軽くするため0.6tの鉄板を丸めてパイプを作り、それを曲げてエキパイにした。サイレンサーはアルミで作った。

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排気系の寸法は自分なりの計算で出したものだが、低速から高回転域までパワーが上がり、しかも重量はチタン製より軽い。

エンジンを下した裸のフレームを見てみると、貧相でいかにも剛性が低そうである。それはそうだ。もとはC15の250cc用で、低価格車のものだから作りが安っぽいのも致し方ない。

そこでメインパイプの下に補強を入れ、それをエンジンとも固定した。この補強一本でエンジンとフレームが剛体となり、車体剛性が向上した。

じつのところ441は、購入前から最強のモトクロッサーにしようと、ホンダCRMのフロントフォークと21インチのドラム付きホイールを準備していたが、補強したフレームでもフォークに負けてしまうため、泣く泣く諦めることにした。

441は一見軽く見えるが、実際には145kgもある。そこで余計なブラケット類を切り落とし、シャフト類はドリルで揉んで中空にした。勿論、フェンダーやハンドルなどはアルミに交換。

少し時間も掛かったが、トータルで23kgもの軽量化が図れた。ナンバープレートホルダーも初期型のシンプルなものがなかったため自作した。これもなかなか格好いい。

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やっと完成し、キックを下ろそうとしたが、あまりに重い。これでは普段の足として使い物にならない。そこでキックペダルを100mmも延長したが、まだ重い。

キックは重いが、走り出すとじつに気持ちがいい。トルクフルなエンジンと軽量な車体。耳には乾いたエンジンサウンドが広がり、アップライトな姿勢は爽快の一言だ。

こうなると、サスペンションはプアーだが、各地で行なわれているビンテージモトクロスに挑戦したくなってくる。日本でも河川敷などで行なわれているため、まずは様子見から始めたいと思う。

『BSA 441 VICTOR SPECIAL』1969年
  • エンジン=空冷単気筒OHV
  • 排気量=441cc
  • 内径×行程=79×90mm
  • 出力=29hp+α/5,750rpm
  • 車重=145(-23)kg
  • 変速機=4速
  • サスペンション=F:テレスコピック/R:スイングアーム

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