【トライアンフ トライデント660試乗記】もっとも身近で心地よく感じられる伝統のトリプルエンジン
- 掲載日/2026年08月23日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン 取材・文・写真/小松 男


「トライデント」という車名に込められた強い想い
何十年にもわたり、トライアンフのことを見てきたが、その中で、大きく潮目が変わったことが何度かあった。その中の一つに、2021年のトライデント660の登場も挙げることが出来る(発表は2020年)。
当時は新型ウイルスの問題で、密を避けることが求められる社会情勢の中、その反動としてバイク業界全体が盛り上がりを見せ始めていたということも後押しとして考えられるが、新開発のトリプルエンジン、モダンでありながら丸形ヘッドライトを備えたオーソドックスなロードスタースタイル、そして手ごろな価格帯という戦略性を兼ね備えたモデルであり、それがしっかりとユーザーに受け入れられた。その結果、トライアンフオーナーの裾野拡大につながったことは、歴然だった。

そもそもトライデントという車名の歴史を遡ると、1968年に登場したT150トライデントにたどり着く。それまでトライアンフの主力であった649ccのボンネビル(T120)などのバーチカルツイン(並列2気筒)よりも排気量を拡大した740ccのエンジンを搭載し、さらに、このエンジンこそがトライアンフ初となるトリプル(三気筒レイアウト)であった。つまり、ここにボンネビルと双璧を成す、次世代を担うスポーツモデルが誕生したというわけだ。
最高出力58ps/7,250rpmを発生したこのエンジンは、姉妹車であるBSA・ロケット3とともに、デイトナ200マイルやマン島TTといったメジャーレースで数々の優勝を記録し、世界最高峰のマルチエンジンモデルとして人々の関心を一手に引き寄せた。

その後、1974年にセルスターターや左足シフトなどを備えた改良型のT160トライデントへとモデルチェンジを果たすが、当時のトライアンフは深刻な経営難に陥っていた。労働争議の影響でトライデントの生産はメリデン工場からBSAのスモール・ヒース工場へと移され、1975年、NVT(ノートン・ビリヤース・トライアンフ)の経営破綻とともに、トライデントはその歴史に一度幕を下ろすこととなる。
それから半世紀近い時を経て、満を持して復活ののろしを上げたトライデント660は、再び人々に受け入れられる人気モデルとなっているのである。
トライアンフ トライデント660 特徴
ストリートトリプルがあるのに、なぜ?それでもトライアンフが「もう一台」を生んだ理由
2020年、突如プロトタイプ画像とともに発表されたトライデント660には、正直なところ懐疑的な声も少なくなかった。というのも、トライアンフには同じ2020年に日本上陸したばかりの660cc版ストリートトリプルSが存在しており、「同じ3気筒、同じクラスに、なぜもう一台投入するのか」という疑問符がついて回ったからだ。
しかし蓋を開けてみれば、その狙いは明確だった。ストリートトリプルが軽快でパンチの効いたスポーツキャラクターを追求したモデルであるのに対し、トライデント660はあくまで「エントリーユーザーの間口を広げる」ことに主眼を置いた、まったく別の存在だったのだ。

エンジンは、ストリートトリプルSのものをベースとしながら、60点以上のパーツを新規設計。ボアを縮小しストロークを延長することで、低中速域のトルクを重視した特性に仕上げられたことは大きなポイントとなっている。そのおかげで得た、ほぼ全域で最大トルクの90%を発揮するという扱いやすさは、大型二輪の入り口に立つライダーにとって、大きな安心材料になったはずだ。
加えて、変わらぬ丸型ヘッドライトを採用したオーソドックスなロードスタースタイル、ライドバイワイヤ、トラクションコントロール、TFTカラーメーターといった当時としては十分すぎる装備を、100万円を切る価格に収めてきたこともまた、驚きをもって迎えられた。

登場から数年、トライデント660は着実にアップデートを重ねてきた。2022年モデルは大きなスペック変更のないキャリーオーバーだったが、2025年モデルでは6軸IMUによるコーナリングABS・トラクションコントロール、クイックシフター、クルーズコントロールが標準装備化され、電子制御面で大きく進化。そして2026年モデルでは、各気筒独立のスロットルボディを採用するなど心臓部にまでメスが入り、最高出力は81psから95psへと引き上げられた。ストリートトリプルの陰に隠れた”廉価版”では終わらせない。そんなトライアンフの意地すら感じさせる、着実な熟成の跡がここにある。
それでは、約1週間にわたり付き合った2026モデルのトライデント660の印象をお伝えしていこう。

トライアンフ トライデント660 試乗インプレッション
最新の電子制御を体感してこそ見えてくる、
現代のトリプル入門機の真価
まず目を引くのが、2026年モデルで刷新された外観だ。彫りの深いニーグリップ形状を採用した新型フューエルタンク、ライダー用とパッセンジャー用を分けた新設計の分割式シート、そしてデザインを一新したヘッドライトまわり。「登場から数年、外観に大きな変化はないのでは」という先入観を持って試乗に臨んだ分、この進化は嬉しい驚きだった。
サイズ感は絶妙。CB400SFなど国内400ccロードスターからのステップアップとしても、まったく違和感なく馴染む懐の深さがある。シート高810mmという数値だけを見るとやや高く感じるかもしれないが、車体そのものは細身にまとめられ、車重も大型3気筒モデルとしては軽快な部類に収まる。体格や体力にさほど自信がないライダーでも、無理なく扱いきれるはずだ。

ライディングモードはスポーツ・ロード・レインの3種類が用意されている。普段から大型排気量やスポーツバイクに乗り慣れている身としては、つい「スポーツ」モードで固定してしまいがちだが、実際に扱いやすさとバランスの良さで万人受けするのは「ロード」モードだろう。

エンジンマネジメントはさすがに熟成されており、3000〜4000rpm付近を常用域として流していると、十分なトルクと気持ちよい加速感が得られる。トライアンフのトリプルエンジンの魅力を、もっとも身近な形で味わえるのが、このトライデント660なのだ。
ハンドリングも秀逸だ。サスペンションとタイヤが良い仕事をしてくれるおかげで、深々とバンクさせても不安がなく、タイヤの端まできっちりと使い切ることができる。

私も含めた古参のバイクメディア関係者は、今やMoto2由来のエンジンをベースに開発された上位グレード、トライデント800の方が、エンジンや足まわりの仕上がりとして上質だと書いてしまいがちだ。だが、一般的なライダーが日常のストリートを走らせる分には、トライデント660でまったく不足はない。
むしろ最高出力が引き上げられていながらも、ガンガン回していけ、そこにより一層の快感を得られるようになった点は素直に評価すべきである。

ただし、ライドバイワイヤによる制御は、昔からのライダーからすると、どこか人工的なセッティングに感じられる場面もある。たとえば、ブレーキでフロントフォークを一瞬沈み込ませ、すぐさまスロットルをワイドオープンにしてフロントアップをさせようとしても、センサーがそれを読み取り、抑制方向に介入してくる。
バイワイヤの採用は自動車の世界では一般的で、バイク業界もその方向に舵を取っているが、先日電子ピアノの鍵盤に触れた際にも似たような感覚を覚えた。アナログ(ハンマーアクション)とデジタル(信号)を上手く組み合わせているものの、指先から伝わる追従性にはどこか不自然さが感じられたのだ。
トライデント660での感触にせよ、良くも悪くも現代的であり、安全性が引き上げられていることに間違いはないのだが、やや惜しいと感じる瞬間もなくはない。その先には、かつてはキャブレターのセッティングで解決していたことが、これからはブラックボックスの裏側に踏み込む”チート”的なカスタムとして出てくるのかもしれない、とふと思わせられた。

とはいえ、このような指摘をするのは、もはや旧世代のライダーである私自身であり、あくまでも蓄積してきた経験からそう思ったことだとご理解いただきたい。
それに、若干価格が引き上げられたとはいえ、トライアンフのトリプルエンジンモデルの中では、最も手ごろな存在であることに変わりはない。そのうえ、トリプルエンジン特有の良さを誰もが感じられる仕上がりに達している。「トライアンフの中から一台を選べ」と言われたら、私はトライデント660を挙げるかもしれない。それだけの魅力が、この一台には詰まっているのだ。
トライアンフ トライデント660 詳細写真












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