VIRGIN TRIUMPH | 【トライアンフ TF250-E / TF450-E 試乗記】オフロード界に殴り込みをかけた、本気の英国製エンデューロマシン 試乗インプレッション

【トライアンフ TF250-E / TF450-E 試乗記】オフロード界に殴り込みをかけた、本気の英国製エンデューロマシン

【トライアンフ TF250-E / TF450-E 試乗記】オフロード界に殴り込みをかけた、本気の英国製エンデューロマシン メイン写真
TRIUMPH TF250-E / TF450-E(2025)
オフロードコンペティションという、最も過酷な戦場へ。英国の名門トライアンフがその威信をかけ、全く新しい挑戦状を叩きつけた。それがエンデューロマシン「TF250-E」と「TF450-E」だ。これは単なるラインナップの追加ではない。ブランドの哲学と技術の粋を集めた、世界への宣戦布告である。あいにくの雨となったメディア試乗会で、泥にまみれながら見えてきたその真価と、ライダーを魅了してやまない奥深い魅力に迫っていく。

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試乗会の舞台となったのは、広大な敷地を誇る栃木県の「オフロードピット那須」。当日は無情にも雨に見舞われ、コースはヘビーマディという、バイクにとっても乗り手にとっても厳しいコンディションとなった。しかし、この悪条件こそが、マシンの見せかけではない本当の実力を白日の下に晒してくれたと言える。水はけの良いサンド質の土壌や滑りやすい路面が、マシンのトラクション性能や繊細なコントローラビリティを試す絶好のフィールドとなったのだ。

今回、試乗車として用意された「TF250-E」と「TF450-E」の2台は、ナンバーを取得し公道走行が可能なエンデューロモデルだ。これらは、より先鋭的なモトクロッサー「TF-X」シリーズと心臓部や骨格を共有しながらも、公道や林道、そして山中のテスト区間を走破するエンデューロという特殊な競技のために、全く新しい思想で生み出されたマシンである。

「王道」の裏にある哲学。
アルミフレームと珠玉のディテール

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まず、このマシンを語る上で避けては通れないのが、フレームの選択だ。エンデューロバイクの強豪がひしめく欧州メーカーの多くが、路面からの衝撃をしなやかにいなす特性を重視し、スチール製フレームを長年採用してきた。その中で、トライアンフは高剛性でシャープなハンドリングが持ち味のアルミフレームという、どちらかといえば国産モトクロッサーに近いアプローチを選択した。これは、単なる後発の差別化ではない。長年ロードバイクの世界で磨き上げてきた、精密なハンドリングと高い走行性能への絶対的な自信の表れに他ならない。

しかし、その乗り味は決して無慈悲なほど硬いわけではない。ジャンプの着地では、サスペンションと連携して衝撃をしなやかに受け止め、それでいてライダーの僅かな体重移動や入力には、カミソリのように鋭く反応する。この絶妙なバランス感覚こそ、トライアンフの真骨頂と言えるだろう。

そして、その造形は他の競技車両とは一線を画す、圧倒的な所有欲を満たしてくれる。美しく仕上げられたフレームの溶接ビード、整備性と見た目を両立するトルクスボルトで統一された各部の締結、力を加えても軋むことのない高品質な外装パーツ。細部に至るまで「高級車」としてのトライアンフの誇りが宿っており、泥にまみれてなお、その上質な佇まいは失われない。競技の道具である以前に、趣味の逸品としてオーナーの心を豊かにする。それがトライアンフの哲学なのだ。

意のままに操る快感。
「TF250-E」が示す“信頼”という性能

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まずは、このカテゴリーの主戦場である250ccモデル、TF250-Eからコースインする。驚いたのは、滑りやすい木の根や急な登坂で問われる、極低速域でのスロットルレスポンスだ。後輪が空転するかしないかという、ミリ単位のスロットル操作が要求される場面で、このエンジンはライダーの意図を完璧に汲み取り、後輪がしっかりと地面を掴む感覚を伝えてくれる。「低速トルクがある」というありふれた言葉では片付けられない、明確なパンチ力を内包しながらも、決して暴れ馬にはならない、完璧なコントロール下にあるという絶対的な信頼感だ。そこからスロットルを開けていけば、250ccらしい軽やかな吹け上がりと共に、必要十分なパワーがリニアに立ち上がる。

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この秀逸なエンジン特性を、さらに高い次元へと昇華させているのが電子制御だ。ライディングモードは「スタンダード」と、より穏やかな「マイルド」を用意。そして特筆すべきはトラクションコントロールである。これは、オンロードバイクのようにただスリップを抑制する安全装置ではない。コーナー脱出時に意図的にリアを滑らせて向きを変えるような、積極的な走りの中でも、マシンが前に進む推進力を失わないように、ライダーの操作を邪魔することなく巧みに介入してくる。まさに「レーサーのためのトラクションコントロール」だ。このおかげで、通常なら躊躇するようなマディな路面でも、恐怖心なくスロットルを開けていくことができた。そして、高剛性アルミフレームがもたらすハンドリングは、常にフロントタイヤが自分の掌の中にあるかのような、ダイレクトな接地感を生み出す。これほどフロントを信頼してコーナーに飛び込んでいけるマシンは、そう多くはない。

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獰猛さと懐の深さ。
常識を覆すフレンドリーな「TF450-E」

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次に、大排気量クラスのTF450-Eに乗り換える。450ccのオフロードバイクといえば、そのあまりにも強大なパワーと、独特のエンジン特性から、乗りこなすには相応のスキルと体力を要する「プロフェッショナル向け」というのが一般的な認識だ。しかし、このTF450-Eは、我々が抱いていた先入観を心地よく裏切ってくれた。

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確かにパワーは圧倒的だが、その真価は低回転域から湧き出る、まるでトラクターのような強大なトルクにある。3速や4速といった高いギアに入れたまま、アイドリングに近い回転数のままでややこしい難所をいとも簡単にクリアできるため、250ccのように大きなスロットルワークや半クラッチ操作から解放されるのだ。これがどれほどライダーの疲労を軽減し、精神的な余裕を生むか、経験者であればあるほど理解できるだろう。

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また、コンペティションモデルの450ccは、その高い圧縮比ゆえにエンジンストール(エンスト)しやすいのが常だが、このマシンは(特に慣らし運転を終えたばかりの車両としては)驚くほどエンストしにくい。これもビギナーや中級者にとって、計り知れない恩恵となる。車体は250ccと共通だが、エンジンの回転マスが大きいため、乗り味はより重厚で安定志向になる。そのキャラクターは、無理にエンジンを回さなくてもグイグイと前に進むため、開けた林道やハイスピードなセクションでは、むしろ450ccの方が楽で速いという逆転現象すら生み出す。乗り手を選ぶジャジャ馬ではなく、その懐の深さでライダーを助けてくれる、頼れる相棒といった印象だ。

新たなスタンダードの誕生。
これは単なるオフロードバイクではない

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トライアンフが初めて世に送り出したエンデューロモデルは、奇をてらうことなく、エンデューロバイクというものの本質を深く理解し、その王道を真っ直ぐに突き進む、非常に真面目な作り込みがされていた。レースで勝つための鋭利な性能を追求しつつ、週末に仲間と林道ツーリングを楽しむようなホビーライダーにとっても、その上質な作りと所有感は、何物にも代えがたい大きな魅力となるだろう。外れたところのないオーソドックスな設計は、高い信頼性と耐久性の裏返しでもある。

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レースでの勝利という至上命題はもちろん、純粋にオフロードライディングを楽しむための最高の「相棒」としても、このマシンはあらゆる要求に高いレベルで応えてくれるはずだ。オフロードの世界に、間違いなく新たなスタンダードを打ち立てるであろうトライアンフの本気。そのポテンシャルは、まだ底が見えない。

トライアンフ TF250-E / TF450-E 詳細写真

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トライアンフのアイデンティティを示すパフォーマンスイエローが目を引く、スリムでアグレッシブなスタイリング。そのすべてが、ライダーの自由な動きを妨げず、最高のパフォーマンスを発揮するためにデザインされている。価格はTF250-Eが¥1,156,000(税込)、TF450-Eが¥1,296,000(税込)
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欧州のライバルたちがスチールフレームを採用する中、トライアンフは軽量・高剛性なアルミ製スパインフレームを選択。これはモトクロッサー譲りのシャープなハンドリングと、高速域での絶大な安定性を両立させるための決断だ。美しく仕上げられたTIG溶接が、その品質の高さを物語っている。
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サスペンションには、前後ともに市場で絶大な信頼を得るKYB製のフルアジャスタブルユニットを採用。エンデューロの多様な地形に対応するため専用にチューニングされ、モトクロスモデルより10mmストロークを短縮。しなやかな衝撃吸収性と、ライダーに的確な情報を伝える剛性感を完璧に両立している。
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モトクロッサー用エンジンをベースに、エンデューロに求められる粘り強いパワーデリバリーを実現するため、イナーシャを最適化。6速ギアボックスとEXEDY製レーシングクラッチとの組み合わせで、テクニカルなセクションでもスムーズなシフト操作が可能。扱いやすさこそ、長丁場のレースを戦い抜くための最強の武器となる。
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449.9ccの心臓部は、最高出力58.6PS、最大トルク49.3Nmを発生。その真価は、低中速域から湧き出る圧倒的なトルクにある。急なヒルクライムやサンドセクションでもギアチェンジを最小限に抑え、ライダーの疲労を軽減。まさに経験豊富なライダーのための、パワフルで頼れるパートナーだ。
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249.9cc DOHCエンジンは、クラス最高となる42.3PSを絞り出す。そのパワーはあくまでコントローラブルで、ライダーは意のままにマシンを操ることができる。低速での粘り強さと、12,800rpmまでシャープに吹け上がるトップエンドの伸びが、タイトなエンデューロコースで最大の武器となるだろう。
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オフロードを知り尽くしたAthena社と共同開発した専用ECUが、エンジン性能を管理する。路面状況に応じて瞬時に切り替え可能な2つのエンジンマップ、そしてスリップを推進力に変えるインテリジェントなトラクションコントロールが、あらゆるレベルのライダーを強力にサポートする。
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ブレーキには、フロントにブレンボ製2ピストンキャリパーと260mmガルファー製ディスク、リアにはブレンボ製シングルピストンキャリパーと220mmディスクを装備。どんな状況下でも、指一本で車速をコントロールできる、繊細かつ強力なストッピングパワーを提供する。
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ハンドルバーはプロテーパー社製、グリップはODI社のロックオンタイプと、トップブランドの製品で固められている。調整可能なハンドルマウントにより、体格や好みに合わせた完璧なライディングポジションを追求可能。ライダーはマシンとの一体感を高め、走りにのみ集中することができる。
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エンデューロ競技に不可欠なLEDヘッドライトとテールライトをコンパクトに装備。8.3リットルの燃料タンクは、長距離のルート区間や休日のトレイルライドでも、給油の心配を軽減してくれる。レースでのパフォーマンスと、ファンライドでの実用性を見事に両立している。
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このマシンは、5度のワールドチャンピオン、イヴァン・セルバンテスや、レジェンドライダー、ポール・エドモンドソンといったトップライダーたちの膨大な経験とフィードバックを元に開発された。卓上の理論だけでなく、レースという実戦の場で鍛え上げられた、真のコンペティションマシンなのだ。
性能をさらに高めるためのアクラポビッチ製サイレンサーなど、多彩な専用アクセサリーを用意。また、トライアンフの専門ディーラーネットワークと、24時間アクセス可能なオンラインパーツ供給システムが、オーナーのオフロードライフを強力にバックアップ。安心して走り続けられる環境が整っている。
試乗ライダー プロフィール
稲垣 正倫
株式会社アニマルハウス代表。雑誌編集者を経験してから独立、編集プロダクションを設立。エンデューロを中心に、モトクロス、ラリーなどオフロード競技に強い。国内だけでなく海外レースにも積極的に取材に訪れている。ライダーとしてはクロスカブからオフロードレーサーまで幅広く乗りこなす。

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