トライアンフのタイガースポーツ660を試乗インプレ!日常使いからロングツーリングまで秀でた使い勝手が魅力
- 掲載日/2022年01月11日
- 取材協力/トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン
取材・文・写真/小松 男

トライデントに続き投入されたボトムを引き上げる戦略的モデル
2021年秋にトライアンフから発表された新たなアドベンチャーファミリー、タイガースポーツ660。昨今拡充を図ってきたタイガーシリーズの中でも、もっとも小排気量となるモデルである。これは裏を返せばハイパフォーマンスを追い求めてきたこともあり、一度原点に戻りエントリー層も気軽に楽しめるようなタイガーを開発してきたと考えることができる。しかもコロナ禍の折、二輪業界は全世界的に生産遅延が問題となっている中で、日本へは優先的にデリバリーが開始されることとなった。
12月には国内の二輪メディアを対象に発表試乗会が開催され、私自身も参加させていただいたのだが、そこではタイガースポーツ660なるモデルがただ単にダウンサイジングしたタイガーの末弟という立ち位置なだけでなく、しっかりとした奥深さを垣間見ることができた。じっくりと吟味したくなった私は、後日あらためてテスト車両を借用したので、ここでタイガースポーツ660の詳細を紹介させていただきたい。
タイガースポーツ660 特徴
エクスプローラー系ではないからこそ、気軽に付き合える優しさを感じられる
バイク業界においてアドベンチャーセグメントが注目されてからかなりの年月が経ったが、トライアンフ・タイガーシリーズは、そのパイオニアのひとつとして挙げられるモデルだ。トライアンフの得意とするトリプルエンジンを採用したタイガーが登場したのは1993年のこと(メリデン工場時代のタイガーについてはここでは割愛させていただく)。まだアドベンチャーバイクというセグメントは確立されていない頃で、オンオフ楽しめるデュアルパーパスモデルとして扱われていた。安楽なポジションやパワフルなキャラクターはロングツーリングに適しており、長い休暇を取得し何泊にもわたる旅を楽しむ文化が根付いている欧州を中心に大ヒットモデルとなる。
2000年代に入ると排気量が大小分けられたタイガーがマーケットへ投入されるようになり、さらにはオンロード寄りのセッティングとされたグレード(タイガースポーツ系)、逆にオフロード志向を高めたグレード(タイガーエクスプローラー系)と細分化されてきた。どのタイガーも個性が光り、多くのライダーを魅了してきた。
直近のトライアンフラインナップでは、800、850、900、1200と存在していたのだが、そのような中で突如現れたのが、前者を下回る排気量のエンジンを搭載した今回のタイガースポーツ660だった。そんなタイガーファミリーのニューカマーを、まずはスタイリングから考察してゆこう。
タイガースポーツ660 試乗インプレッション
スキルやレベルなど関係なく、幅広く薦めることができる良作
昨今のタイガーシリーズは、鳥類のくちばし的な印象を受けるシャープなフロントフェンダーが特徴となっていたのだが、タイガースポーツ660は、ヘッドライトこそ2灯タイプを踏襲しているものの、顔つきは明らかに他の現行タイガーと異なる。そう、これは以前存在したタイガー1050やその後継のタイガースポーツの類のデザインだ。2010年代に入ってからのタイガーシリーズはオフロード性能を引き上げたエクスプローラー系を派生させた一方でオンロード寄りのタイガースポーツを用意していた。現在国内マーケットにおいてタイガースポーツはラインナップ落ちをしていたのだが、今回タイガースポーツ660として再登場した形となった。
エンジンを始動すると、ヒュルヒュルと息づき紛れもないトライアンフ特有のトリプルサウンドが響き渡る。タイガースポーツ660に搭載されているのは、先だって登場していたトライデント660と同系のエンジンだ。以前トライデントのテストを行った時の印象は、マイルドな特性でありながらもしっかりとしたパワー感を備えているというもので、それに対してどのようなセッティングとなっているのかも気になっていた。
ギア比やライディングポジション、ディメンションの違いなどといったものの相乗効果もあり、タイガースポーツ660は低中回転域で一層パワー感が増した印象を受ける。全回転域気持ちの良いフィーリングだが、その中でも4000~7000回転が美味しい味付けだ。バイワイヤ方式が採用されていることもあり、ラフなスロットルワークを行っても何もなかったかのように涼しく許容してくれるし、フロントアップさせたい時にはそれに応じ、逆にしっかりとトラクションを伝えたい時にはトラクションコントロールランプを点滅させながらぐいぐいと車体を前へと押し出す。レインモードはスロットル操作に対し、過度なダルさだと少々思えたが、それも悪路での安心感につながると思えば納得できるものだ。
フロントフォークは調整機構こそ持たないものの良く動き、リアサスペンションもリアタイヤの接地状況をしっかりとインフォメーションしてくれる。ハンドル幅もこの手のモデルにしては幅が抑えられており、小柄なライダーでもしっかりと切ることができるだろう。なので、市街地、高速、ワインディングと、どのステージでも手足感覚で車体を操ることができるのだ。一方でフロント120/70-17、リア180/55-17というタイヤセットはオンロード志向が強く、一般的な林道程度であれば長めの足まわりを上手く駆使してパスできるとしても、本格的なオフロードに踏み入れるには躊躇してしまう。アドベンチャーモデルとされてはいるが、その点の割り切りは大切だろう。
シートに関しては後端がせり上がっているために、ハンドルに荷重がかかり気味になってしまう点が気になったが、車体が割とスリムなために、足つき性に関しては及第点。もし足つきに心配があったとしても、走り出してしまえば、タイガースポーツの世界観にどっぷりと浸ることができるだろう。
過激ではないがエキサイティングであり、イージーでありながらも奥が深い。これ一台で何でもこなすことができるコストパフォーマンスの高さがあり、しかも飽きずに長く付き合うことができる。そんなバイクに仕上がっていた。ミドルクラスアドベンチャーセグメントはライバルも多いが、その中でもトライアンフ・タイガースポーツ660は、所有感、満足度の高いモデルになっているのだ。
タイガースポーツ660 詳細写真












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