VIRGIN TRIUMPH | DAYTONAレースダイアリー vol.09 江本陸さんのコラム

DAYTONAレースダイアリー vol.09

初夏の太陽光線が街路樹の葉を青々と眩いばかりに照り輝かせた5月30日、横浜の日本大通りにてtvk(テレビ神奈川)主催の『秋じゃないけど収穫祭』というイベントが開催された。会場となった日本大通りには様々なイベントブースが立ち並び、多くの来場者で詰めかけ大いに賑わっていた。

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現在、僕の学生時代からの親友にして、80年代のバイクフィーバーに一石を投じたGP500チャンピオンライダー斉藤仁を中心にtvkとタッグを組み、従来のバイク番組とは一味違うライフスタイルをテーマに送る、バイク新情報番組『Ride & Life』の企画を進めている。

今回のイベントでは、番組自体のプレゼンテーションの一貫として、斉藤仁、現役にして元MotoGPライダーの新垣選手、そしてサンデーレーサーの僕というレーサーチームと、神奈川県警白バイ隊最年長のレジェンド的白バイライダーの中村警部補、全国白バイ競技大会のコンペティションライダー山田警部補、そして白バイ歴4年の女性コンペティター倉田巡査長との異色多才なトークショーが行われた。

フィールドの違いはあるものの、スピード違反の根絶に命をかける白バイ隊員と、片や「速い人が一番偉い」という法定速度外の世界に生きる我々とでは「水と油のようにどこまで行っても交わらないムードが漂っていたのだろうな」、そんな有り様を想像されるかもしれない。

しかし社会的立場の違いはあっても、ベースマインドはバイク好き者同士。楽屋で一旦バイクの話ともなれば、顔は自然とほころび、互いの経験や裏話を連発。取材者としてのイタズラ心が騒ぎだした僕はこんな質問を投げてみた。

「皆さんオートバイ好きで若い頃から乗られていたと伺っています。若気の至りで白バイに追いかけられた事も経験されたと思いますが、追われる方から取り締まる側になられた理由は?」

すると「そんなこと聞くのはマズイでしょ」の空気感が漂い、一瞬フリーズするも控室は大爆笑に包まれる一幕もあった。お互いの心がシンクロし始めてきた瞬間だ。ステージに上がればジョークを交えつつ、司会者からの質問に白バイ隊員は交通安全をベースにした話は勿論だが、コンペティションや日頃の活動について説明がされ、我々レーサーチームからは、仁が菅生でバリー・シーンと絡んで転倒したり、タバコ好きのバリーに誘われてエスケープゾーンのクッション脇でオフィシャルから入手したタバコを吸っていた話、新垣選手からはレーシングトークが炸裂し、普段耳にする事が出来ないエピソードが会場を大いに沸かした。

レースと公道では走り方のセオリーや状況等が大いに異なる。レーシングスピードの走行には当然リスクが伴うが、その分装備やバイクの整備、それにメンタルに至るまで、リスク回避が行われている。それに比べると一般公道は予期せぬ危険がつきまとい、ジャングルのようでもある。

状況があまりにも違い過ぎるので双方を比較する事は難しい。レースは同じレベルのライダー同士が確固たる意志をもってひとつの目標に向かうという共通項があるが、一般公道では速度も目的も、技術や車種も何もかもが入り組んでいる。そういった事を鑑みると、僕は「一般公道の方がハイリスクだな」と思っている。

しかし、いくら身の護りや完璧な車両の整備がなされていたとしても、何が起こるのか解らないのがレース。そこから先は神のみぞ知る世界。そうなると「どうすれば良いの?」という事になる。

それに関してレーサーチームの見解は、自然界に生きる動物のサバイバルの必須条件は“危険予知能力”が高いかどうかにかかわっている、だ。いわゆる動物的な“勘”というやつだ。そうした能力には当然個体差があるが「今日は何かが違うな」と感じたら、絶対に無理をしない。実際に仁や新垣選手、そして僕もそうした感覚を頼りに自分を護ってきた。

僕のモータースポーツの師匠である、日本人レーサーとして初めてヨーロッパに切り込み、中嶋悟氏を育て上げた永遠のオイリーボーイ、生沢徹氏にこう言われた事がある。

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「Riku、オレがこの歳までどうやってサバイブ出来たのか解るか? それは予感めいた事を少しでも感じたら、自分から避けてきたからなんだ。危険に挑むんじゃなくてこっちから避けるんだよ。大事なレースだって自分の心の声を信じてリタイアした事だって何度もある。それには勇気がいるけどな」

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御歳73にして現役レーサー、流石である(2015年5月17日に袖ケ浦フォレストレースウェイで開催された『SIDEWAY TROPHY』では愛車のポルシェ911Tで優勝している)。

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僕には臨床心理カウンセラーというもうひとつの顔がある。そうした立場から言うと「五感をフルに働かせて」という表現は当たり前のように耳にするが、“第六感”と言うと「スピリチュアルの世界ですか?」とか、時にはそれが眉唾のようにも捉えられたり「何か物理的な事での証拠は?」とくる。全くもってナンセンスな話だ。

心理学やカウンセリングの世界でも、最近になって第六感は人間が持つ能力の一部と言われている。少なくとも生沢氏をはじめ、我々3人は第六感という“感じる力”をもってレーシングワールドをサバイブしている事は間違いない。

これはレースにかかわらず、モーターサイクルライフを長く続けるための秘訣なのですぞ。是非お忘れなく。Ciao!

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