VIRGIN TRIUMPH | 6-22 ベスト・オブ・トライアンフはトロフィー・TR5だ 立花 啓毅さんのコラム

6-22 ベスト・オブ・トライアンフはトロフィー・TR5だ

  • 掲載日/2018年10月12日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

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ご存知のようにトライアンフは今年で創立116年目を迎える長老ブランドだ。その間、数え切れぬ名車を残しているが、特にその中でベスト・オブ・トライアンフを挙げろと言われると、私は躊躇なく1948年の500ccトロフィーTR5と答える。くしくもこのトロフィーは、前章のベロセットKTTと同時期に発表された。

私がこのTR5を手に入れた時期は、ブリヂストンサイクルに籍を置き、数々のスポーツバイクを開発していた時だった。ブリヂストンのエンジンは、ロータリーバルブとポーラスメッキを施したアルミシリンダーが特徴で、レースでは圧倒的に速かった。その効果もあり小排気量クラスでは、日本だけでなく米国でも高い人気を誇っていた。

しかし大排気量となると、アメリカではトライアンフが市場を席捲し日本車は皆無。そこでブリヂストンは、米国でのマーケットを拡大するため大型車クラスへの参入を考えた。

因みに国内ではホスク、キャブトン、陸王、メグロなどが大型バイクを作っていたが、対米輸出は行っていなかった。なにしろ戦後の日本には283社(私が調査したもので詳細は3-3章)ものバイクメーカーがあったのだから、今よりも多くのバイクが作られていたのだ。

そのころ(50~60年代)のアメリカでは、鈍重なハーレーに対して俊敏なトライアンフは超人気で、圧倒的な販売台数を誇っていた。特にT120ボンネビルは、120の名が示すように最高速が120mph(193km/h)の世界最速を謳い、瀟洒なスタイルとアメリカ人好みの派手なカラーリングも手伝い若者の心を捉えたからだ。

エンジンはOHV2気筒の650ccで46ps/6,500rpmを発揮。我々はこの性能ならば350ccでも可能と考え、ロータリーバルブの2気筒を開発することにした。この任をまかされたのが私である。

ホンダも同様に大型車で米国市場を拡大しようと考え、1965年に登場させたのがCB450だった。

そうなると相手はトライアンフだけでなく、CB450も競合に加わった。CB450はイルカ型タンクが特徴で、エンジンはホンダが誇るDOHCの2気筒。性能はご存じのようにハンパではなく、世界中に衝撃を与えた。早速、我々は比較テスト用にこのCB450を購入し、傍に置いていた。

ところで私のトロフィーTR5は、500ccのOHV2気筒で、リジッドフレームにハブクッションという古めかしい恰好をしている。ハブクッションとはプランジャーやスイングアームが誕生する前のもので、リアハブの中に板バネをゼンマイのように巻いたサスペンションである。そのためホイールは重く、どうみても古臭い。

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ところがこのトロフィーがかなり速いのだ。そこでテスト用に購入したCB450を引っ張り出し、私のトラとテストコースで比較することにした。誰もが古いOHVと最新鋭のDOHCでは、勝負は明白だと思っていた。

いよいよドラッグレースのスタートだ。ライダーはトラには私が、CB450には開発ライダーが跨った。スタートの合図は、仲間が被っていた作業帽の振り下ろしだ。2台はほぼ同時にスタートを切った。結果は集まった開発陣の予想をくつがえし、古臭いトラがスタートから飛び出し圧倒的に速かった。誰もが「信じられん!もう一度!」ということで再スタートしたが結果は同じ。

距離が短かったためピックアップが良くトルクフルなトラが有利だったことと、私は当時、日米対抗ドラッグレースで総合優勝していたこともあり、若干、腕の差もあったかも知れない。いずれにしても、設計年度がCB450より17年も古いトラに軍配が上がったのだ。

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この強力なトロフィーTR5のエンジンは、非常に面白い経緯を持っている。もともとは戦時中の1942年にポータブル型発電機のエンジンとして作られたものだ。携帯型だから小型軽量にするためエンジンはオールアルミとし、強制空冷のダクトに合せてシリンダーとヘッドは四角い恰好をしていた。

戦争が終結すると、各地でレースが再開され、トライアンフもグランプリレーサーを作ることとなった。その時に白羽の矢が向けられたのが、この発電機用エンジンだった。すでにトライアンフはタイガー100という大成功を収めたスピードツイン500ccを持っていた。にもかかわらず、この発電機用エンジンを採用したのだから、よほど素性が良かったものと思う。ベースが発電機用というだけで、実際には高度なチューンがなされている。

このGPレーサーのエンジンを市販のトロフィーTR5に搭載したのだから、如何に高性能だったかは伺い知れる。

トライアンフは単に高性能というだけでなく、その格好の良さは他の英国車からも群を抜いていた。細身の車体は力強さと繊細さを併せ持ち、バーティカルツインのピックアップは官能を揺さぶり、鼓動はハラワタに染み渡った。

そこには今のハイテクを駆使しても陵駕しえない動物的な感覚や色気すらあった。当時のドデッとしたハーレーや、色気も素っ気もない実用的な日本車とは全く違う輝きを放っていたのだ。これが設計者エドワード・ターナーのセンスだと思う。そういったトライアンフの中でも、このトロフィーTR5は別格の存在だった。残念なのは、それほどの名車でありながら緒元や詳細のデータが判らない。自分で所有していながらスペックが判らないのだからお恥ずかしい限りだ。

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