VIRGIN TRIUMPH | 6-16 打倒トライトン『BSA・A10スーパーロケット』 立花 啓毅さんのコラム

6-16 打倒トライトン『BSA・A10スーパーロケット』

  • 掲載日/2018年04月13日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

立花啓毅さんのコラムの画像

スーパーロケットは前章のシューティングスター(500cc)を650ccに拡大し、トラのボンネビルに真っ向から対抗したモデルだった。

まずはこのスーパーロケットを購入した理由からお話しよう。タイムトンネルが全盛だったころ、主催者の吉村国彦から「オイ!タチバナ、花形のスーパークラシッククラスがトライトン一色ではつまらないだろう!トラ以外で風穴を開けてくれヨ」と頼まれた。彼とは高校時代からの無二の親友である。そんなこともあって、「それは面白い!」と、二つ返事でこの話に乗ることにした。

とは言ったものの簡単な話ではない。当時、私はカリカリチューンのトライトンで表彰台争いをしていたため、このマシンより速くすることは至難の業だからだ。考えて見れば、トライアンフを負かせるバイクがあれば、既にレースで活躍しているわけだ。例えばヴィンセントのブラックシャドウ(1,000cc)なら可能性はあるが、ストレートで速くてもツクバのようなタイトコースでは勝ち目がない。それよりそんなバイクを手に入ることすらできない。そこでスーパーロケットに的を絞り、トラの6Tエンジンと比較しながらチューンを施した。

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まずボア・ストロークで見ると、6Tが71×82mm=649ccに対し、A10は70×84mm=646ccで、A10が2mmロングストロークである。最大出力を7,500rpmで出そうとすると、その時のピストンスピードは6Tが20.5m/secでギリギリ7,500rpmまで使える。しかしA10は21.0m/secとなり、やや低い回転数にならざるを得ない。まあここは妥協できるレベルだ。

次にバルブの径を比較すると、6TのビッグバルブはIN:42.3φ、EX:38.2φに対して、A10は英国SRM製のスペシャルヘッドでもIN:38.5φ、EX:35.0φとかなり小さい。

INポートはさらに小さく、バルブとポート径が最大のネックであることが判った。そこでSRMのスペシャルヘッドを取り寄せ、ポートをスナップ形状に拡大した。そこにCRキャブの31φを取り付けた。これでも流入量は40.01cc/cm2だからまだ不足である。

シリンダーはボアを70φから72φに広げ、排気量を684ccまで拡大。そこに軽量ピストンを入れた。最新のピストンはハイトが低いため、シリンダー高を11.4mmもカット。

次に圧縮比を限界の9.5まで高めた。シリンダーがアルミならさらに高い圧縮比も可能だが、放熱不足からこの辺が限界のようだ(レース限定ならばまだ高められるが)。プッシュロッドは非常に効果的な手段で、高剛性にするだけで出力が大きく向上する。当時のプッシュロッドは剛性が低いため、カムの形状通りにバルブが作用しないためだ。そのため急激に立ち上がるレーシングカムを入れてもプッシュロッドが逃げてしまう。そこでスバルに使われていたアルミ製の高剛性プッシュロッドを採用。クラッチもこの高出力に対応してダイヤフラムの乾式を組み込んだ。

点火系はクルマ用の進角付きフルトラを加工して取り付けた。これで低速から高速までベストな点火タイミングが得られる。チューンすると点火時期の要求が変わるため進角を2度ずつ変化させてベストを探り、ベストより2度低いところへ設定した。

燃料も同様で、MJを振ってベストを探し、次にプラグの焼け具合を見ながらベストよりやや濃いところにセットした。空冷は熱ダレを起しやすいからだ。エンジンチューンは表面的なスペックだけでなく、ポートの微妙な形状やバルブの背面形状など見えないところも大きく影響する。

エンジンと並行して車体も大幅な軽量化と、ねじれ剛性を高めるために補強を行った。最も効果的なものはヘッドパイプ周りの補強で、次がメインパイプとシートフレームの繋ぎ部。3番目はクレードルパイプの左右の連結である。スイングアーム周りも大切である。

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ブレーキはグリメカの230φを採用したが、そのままでは効きが悪く感じる。原因はシューのリターンスプリングが強すぎるためで、バネを交換するだけでフィーリングも効きも改善できた。

ボルト類はポジポリーニやチタンを使い、太いものはパイプ化して軽量化を図った。勿論、高価なネジだが、「美は細部に宿る」からだ。苦労したがやっと完成し、スタイル的にもコンパクトに仕上がった。早速、試乗してみると、スペック的には私のトライトンに近いが、フィーリングはかなり異なっている。まず低中速のトルクが強力で、意外に滑らかでなことだ。まだカムは交換していないが、このトルクを高速に移行できれば、かなりの戦闘力が期待できる。

ところでスーパーロケットは前述のようにA7の500ccを650ccに拡大したもので、これがA10シリーズとなった。このA10には標準型のゴールデンフラッシュとスーパーロケットの2車種がある。

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スーパーロケットは米国市場を狙ったもので、ゴールデンフラッシュの鋳鉄ヘッドをアルミに替え、ツインキャブとし、クランクを強化、圧縮比を9.0に高めた。その結果、出力は34hpから一気に43hpへ向上。また前後フェンダーをメッキし、高性能で派手なアメリカ人好みのモデルとなった。

日本でトライアンフとBSAの知名度が高いのは、米国と同様にトラとBSAの2銘柄が多く輸入されたからだ。因みにカワサキは、このBSAにならってメグロ・スタミナK1(500cc)を1966年にW1の650ccへと拡大し、アメリカ輸出を開始した。

『BSA model A10 Super Rocket標準仕様』英国製1962年
  • エンジン=空冷並列2気筒OHV
  • 排気量=646cc
  • 内径×行程=70×84
  • 圧縮比=9.0
  • 最大出力=43hp/rpm
  • 車重=190kg
  • 変速機=4速
  • サスペンション=F:テレスコピック R:スイングアーム

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