VIRGIN TRIUMPH | 6-14 ロンドンタクシーを日々の足に 立花 啓毅さんのコラム

6-14 ロンドンタクシーを日々の足に

  • 掲載日/2018年01月12日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

イギリスの代表的な乗り物といえば、まさにロンドンタクシーだといえる。ヒースロー空港から市内への移動は勿論のこと、誰もが日常的に使い、多くの人々から愛されている。乗るたびに感心するのは、非常に合理的な設計でありながら乗る人を穏やかな気持ちにさせてくれることだ。

立花啓毅さんのコラムの画像

この1958年に設計されたFX4は、補助席をパタンと起せば5人の大人が乗れ、大きなスーツケースは、運転手の隣に積み上げることができる。座席はたっぷり大きく、ヒップポイントも高い。天井はシルクハットを被ったまま乗車できるようさらに高く出来ている。

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その雰囲気はちょっとした応接間のようだ。フロアはトンネルがなくフラットで、運転席との間はパーテーシュンボードで仕切られている。これは馬車の時代から継承されてきた構造で、御者とご主人の部屋を分けたショーファードリブンである。

また乗員のアイポイントが地上から160cmに設定してあることも理にかなっている。というのは普段立っている眼の高さが160cmため、この目線でモノを見ることが安全だと考え、20cm近くも上下するシートリフターが付いている。

ロンドンでは、料金を降りてから払うため、運転手と目線が同じになるのもなかなかいい。考えてみるとこのFX4は、何十年も前から人の行動原理に沿った考え方で作られていた。

秀逸なのは大きな車体にもかかわらず回転半径が4.9mと小さいため、昔のオート三輪のように狭い裏路地でもスイスイ曲がれることだ。16インチの大径タイヤがハンドルを切るとゴックと傾き、くるっと小回りする。日本車は一時4WSによって回転半径を小さくしていたが、実に単純な構造である。

そんなロンドンタクシーに憧れ、なんとか手に入らないものかと考えていた。そんな想いが伝わったのか、ルボラン編集長の清水猛彦さんから老舗ジョニーウォーカーの総輸入元コールドベック社がPR用に本国から取り寄せたものがあるという。

外装はジョニーウォーカー・カラーのバーガンディに金色のラインを入れた素晴らしいクルマらしい。ところがそれが回りまわって私のところに来た時には、いすゞ製のディーゼルとATに乗せ換えられ、ぐちゃぐちゃの状態。ボディの塗装はひび割れ、フロアには穴まで開く末期症状だった。おまけにフロントが持ち上がった不格好なものだった。

エンジンはバッテリーを交換してもプッスとも言わない。原因は噴射ポンプが作動していなかったためだ。ポンプを交換し、配管も新たに作り替えた。

このいすゞの2.0Lエンジンは、本来のパーキンス製2.5Lディーゼルに対して、少しトルクは低いが、5psアップの66ps。最大の効果はエンジンが軽いため、動きが軽快になったことだ。フロントが上がっていたのは、これが原因でバネを切って車体を水平にした。

このクルマは日々の足に使おうと考えていたため、手間ひま掛けてブレーキなどの機能部品を整備し、遮音材をたっぷり入れて静かにした。同時に上質なリムジンらしくシートをベージュのモケットに、フロアマットは真紅の赤に張り替え、前席と後席を仕切るパーテーションのガラスには木枠をはめ込んだ。外装はトロンとしたワインカラーにして、細いゴールドのラインを入れると、小山のような大きさも手伝い気品のある立派なリムジンが出来上がった。

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苦労したのは改造申請だ。プロペラシャフトやエンジンブラケットの強度計算書を作り、陸運事務所に6回も通って、やっとナンバーを付けた。喜び勇んで家内を乗せて街中に繰り出した。ところが繁華街で信号待ちをしていると、道行く人が有名人でも乗っているかと思い、後席の女房をのぞき込むのだ。家内は顔を隠すものだから、ますます人が増え、その時の私はどう見ても運転手だった。それからというもの女房は二度と乗らなくなり、精魂込めたリムジンも使わずじまいとなった。

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FX4を運転して気持ち良く感じるのは、人の行動原理に沿った設計がなされているからだ。私は今までに100台以上のクルマを乗り継ぎ、その中でクルマには「文法」があることに気づいた。また文法の多くは、行動原理に基づいたものであることも知った。

特にスポーツカーには多くの文法があり、それを知らずして作られたクルマは、人々から評価されないだけでなく、愛着を感じにくいモノになってしまう。

例えばスポーツカーのドアキーを低い位置にすると、自然に頭を下げ、腰をかがめて背の低いクルマに乗る姿勢が作られる。要はキーの位置ひとつで次に繋がる動作になる。また低いドアキーは車高の低さも演出するもので、そんなことが喜びに繋がったりする。

降りる際もインナーハンドルが手前にあると、上半身をひねってドアを開けなければならない。すると自然に目線が後ろへ向き、安全を確認してドアを開けることになる。これに気がついたのは、父親がドアを開けた瞬間、そこに自転車が突っ込んできた時だった。幸い双方に怪我はなかったが、この時に生まれたアイデアだ。こういった行動原理に基づいた考え方が安全の原点で、これ以外にも多くの文法がある。

次々に新型車が発表されているが、文法を外したクルマは開発者のレベルが透けて見える。ロンドンタクシーほど合理的でしかも文法に沿ったクルマはない。

『Austin FX-4 LONDON TAXI』英国製 1970年型を愛用
  • 全長×全幅×全高=4570×1740×1,770mm
  • 軸距=2,800mm
  • トレッドF/R=1420/1,420mm
  • 車両重量=1500kg(F/790 R/710kg)
  • エンジン=オリジナルはパーキンス製の2,520ccディーゼル
  • 最高出力=61ps/3,500rpm
  • 最大トルク=15 kg-m/2,000rpm
  • (それをいすゞ製の1,995cc、最高出力66ps/4,500rpm、最大トルク12.7kg-m/2,500rpmに載せ替え)
  • ミッション=3速AT
  • サスペンション=F:ダブルウィッシュボーン R:リジット+リーフ
  • タイヤ=5.75-16(175/80R16)

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