VIRGIN TRIUMPH | 6-13 丈夫でしかも速い 『マチレスG3L』 立花 啓毅さんのコラム

6-13 丈夫でしかも速い 『マチレスG3L』

  • 掲載日/2017年12月13日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

「モーターサイクルの発展史」と言われたマチレスとAJSは、長い歴史を持ち、その間に多くの名車を遺している。その名車の中でも今回は高価なGPマシンではなく、真逆の軍用車「G3L」ご紹介しよう。

立花啓毅さんのコラムの画像

MATCHLESSは無敵という意味で、創業は1878年。創業者のH・H・コリアーは、自転車を作ることから始めた。創成期はトライアンフも自転車製造からスタートしている。

マチレスの名が世に轟いたのは、JAPのエンジンを積んだマシンを作り、それに息子を乗せて第1回マン島TTレース(1907)に優勝したときだった。

JAPのエンジンは高性能で信頼性も高く、2輪のロールスロイスと呼ばれたブラフシューペリアにも使われ、映画「アラビアのロレンス」にも登場した。実は日本のオートレースの原型もJAPエキセルシャーで、これが発展して今に繋がっている。

マチレスは1930年になると、JAPのようなVツインを、さらにV4のレーシングエンジンまでも開発した。1939年にはAJSの名でスーパーチャージャー付き500ccV4を作り、最高速度は217km/hにも達した。V4といえば、まさに現役のモトGPでトップ争いをしているホンダやドカティと同形式だ。

本題に入ろう。G3Lは1940年に誕生し、第2次大戦の軍用車として8万台以上もが戦地で使われた。それは丈夫で信頼性が高く、扱いやすいいバイクだったからだ。因みに前章で紹介したAJSの16Cは、このG3Lの発展形で、緒元は同一である。

エンジンはロングストロークのOHV 69.0×93.0=347ccで、今も通用する半球形の燃焼室を持っている。Fフォークはアウターとインナーを丸パイプにして中にダンパーのバルブを入れ、オイルで減衰力を出す世界で最初のテレスコピックを採用。因みに後輪はリジッドだが乗り心地は驚くほど良い。

G3Lは基本性能が高く、また壊れることはまずない。例え壊れても軍用のストック部品が大量にある。嬉しいのは車両も部品も安いことだ。こうなるとレースのベース車両にはもってこいだ。

走らせると、極低速から中速まではトルクフルで滑らかだ。特にクランク廻りの剛性が高いためか静かで高級感すら感じる。しかし問題はパワーが少ないことと6,000rpm付近で大きな振動が出ることだ。パワーが抑えられているのは、鋳鉄ヘッドのため異常燃焼を起すからだろう。

立花啓毅さんのコラムの画像

早速、エンジンを降ろし、車体も含めて徹底的にチューンすることにした。異常燃焼を起こさずにパワーを上げるには、新気を入れてエンジンを内部から冷すことだ。吸気径を可能な限り広げ、ポートをスナップ形状に修正、アマルMk1を取り付けた。キャブもベンチュリー部の流速が上がるように形状を変更した。この効果は大きい。

次は鋳鉄のヘッドに熱伝導の良い銅板を溶接し、フィンを拡大した。出来上ると銅色の大きなヘッドもなかなか格好イイ。

次はカムだ。バルブ部にダイヤルゲージを付けて形状を測定すると、リフトも開角もかなり小さい。そこでグラインダーでベースサークルを削ってリフトを上げ、同時に開角も広げた。単気筒のため大した時間は掛からない。

基本ができたので、この仕様で圧縮比をどこまで上げられるかが鍵となる。試しに圧縮比10のピストンを組み込んでみると、やはり異常燃焼が発生。点火時期と燃料で調整してもノックは収まらずパワーが出せない。しかたなく圧縮比を下げて進角をベストにセットできる点を探すと、8.8となった。

クランクのバランス取りは、オートエンジンの神さまと言われた原さんにお願いした。いわゆる「ハラチューン」だ。彼は現場を見せないが、待っている間にバランス加工をしてしまう。クランクのカウンターウエイトにドリルで穴を空けただけだが、これがどうして全く別モノのエンジンになった。低速トルクが落ちたもののピックアップが向上し、問題の振動が消え、高回転まで綺麗に吹き上がる。

ミッションは筑波のコースに合わせた超クロスレシオを友人の横川さん(マトリックス代表)にお願いしワンオフで製作。ヘアピンは2速、最終コーナーは3速全開になるように計算した。これが見事に的中。

ところがブレーキがエンジン性能に対応できず、危ない目に何回も遭遇。そこでSR400のドラムを使って片ハブに作り替えた。これもなかなか格好イイ。

立花啓毅さんのコラムの画像

もちろんフレームも補強し、フロントのバネを強化。車両重量は40kgも軽量化でき94kgである。その結果、操縦性は現役のバイクに退けをとらず、頭を入れるだけでラインをトレスできる。

ここまで来るには、パワーを出し過ぎてクランクが折れたり、ケースが割れたり色々あった。しかし部品は全て揃い、しかも非常に安い。例えばクランクピンとコンロッド、それにクランクケース左右セットで数万円だった。

ではレースの結果はというと、軍用車のG3LがサラブレットのAJS・7RやベロセットKTT押さえてお立ち台の真ん中が指定席になるほどだ。12月3日のサイドウェイ・トロフィーでも、見事「優勝」に輝いた。76年も前のマシンでも、しっかり作り込んだため現在に通ずる性能を発揮させることができた。

クラシックバイクに魅力を感じるのは、今のバイクにはない作り手の魂をマシンから感じることができるからだ。

『ノーマル仕様のMATCHLESS G3L』英国製 1940-65年
  • エンジン=空冷単気筒OHV
  • 排気量=347cc
  • 内径×行程=69.0×93.0
  • 出力=16.6hp
  • 最高速度=113km/h
  • 変速機=バーマン製4速
  • サスペンション=F:テレスコピック R:リジッドアクスル
  • 車重=134kg
  • 延生産台数=80,000台(イギリス軍に収めた台数)一般販売を含めるとそれ以上となる。

関連する記事

注目のアイテムはコチラ

バイク買取&乗り換えガイド

LINEで見る&読むBikeBros.最新モデル紹介から、バイクイベントやツーリングでのお役立ち情報
さらに、通販サイトのお得なキャンペーンまで配信中です。