VIRGIN TRIUMPH | 6-4 生活に潤いを与えてくれる『オースチン・ヒーレー・スプライト』 立花 啓毅さんのコラム

6-4 生活に潤いを与えてくれる『オースチン・ヒーレー・スプライト』

  • 掲載日/2016年12月09日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

古いクルマやバイクに乗っていると、人から「イイですね! でも大変でしょ?」と、よく言われる。大変でしょ? の意味は、壊れるから大変でしょ? ということだと思う。

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確かに新車の国産車に較べればそうかも知れない。ところがブラックボックスに囲まれた最近のクルマとは違い、構造が非常にシンプルなためスパナとドライバーがあれば大抵の整備は出来てしまう。

とは言っても国産車のようにほっぽらかしというわけにはいかず、様子を伺いながら運転する。まぁこれが楽しいのだが、こういった手間と満足感の天秤で考えてみると、このクルマは満足感の方に傾く。

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ではここで言う満足感とは何か? というと、このクルマがあることによって、生活に潤いが生まれるということだ。これが大切だと思う。

そうは言っても天秤の支点が所有しているうちに変わるクルマもある。ジャガーのマーク2やEタイプはまさにその類いで、最初は少しぐらいトラブっても「まぁこんなものだ!」と自分に言い聞かせていたが、次々に大物がトラブルとなり、お荷物になってくる。このお荷物の例は書ききれないほどだ。

その点ヒーレー・スプライトは可愛いもので、ヘッドを開けてもたかが知れている。そもそも部品点数が少ないから壊れる頻度も少ない。

このクルマは自分でエンジンを降ろし、ボディも腐っているところを切り張りして全塗装した。そこそこ綺麗なクルマでそこまでやるつもりはなかったのだが、サイドシルの塗装が膨らんでいたので、ドライバーでちょっと押してみたら“ブスッ”と入ってしまった。

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ショックだったが覚悟を決め、レストアをすることにした。なかでも塗装が大変で、板金や面研ぎだけでなく、ほこりが舞い上がらないようにガレージ内を水で流すことから始めた。

こうやって自分で全部やると、トラブルが起きることもなく元気で走り、日々の足にも充分使える。

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シンプルなためメンテナンスも楽だが、シンプル過ぎて、このクルマにはトランクリッドすらない。恐らくボディ剛性を上げるためだと思うが、荷物はシートのバックレストを倒して出し入れする。ところが小物が奥へ入ってしまうと手が届かず、頭から潜り込むこともしばしばだった。

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ヒーレー・スプライトの素晴らしいところは、わずか34馬力だが、それでも立派にスポーツカーしていることだ。排気量948ccのOHVエンジンにSUのツインキャブを組み合わせてはいるが34馬力しかない。しかし車重が660kgと、最近の軽ワゴンよりも軽いため、元気よく走る。

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私はスポーツカーとは、走りの性能でもスタイルでもなく、人の感情に呼応し「心を開放」出来るクルマだと思う。いくら高性能でも、心を開放出来なければスポーツカーとは言えず、逆に性能が低くても、心を開放出来れば、そのクルマは紛れもなくスポーツカーである。ヒーレー・スプライトは、その代表例だ。

したがってスポーツカーほど、機能や性能では測れず、作り手の哲学が問われるものはない。人マネや理論だけでは作れるはずはなく、作り手が自問自答し、その積み重ねが情緒へと変化し、それが形となって、結果的に使い手の心を開放するものと思う。

要は作り手が自分なりの哲学を持たねばならない。ところが日本は国全体が「チャラ男」になってしまったためなかなか難しい話だ。

手前味噌になるが、初代のユーノス・ロードスターは、「心の開放」を次のように具現化した。

人は寝不足や二日酔いで少しぐらい体が重くても、スポーツウエアに手を通し、ランニングシューズを履けば、自然に身体が軽くなり気持ちもウキウキする。そういった感覚をクルマで実現させたのだ。

ハンドルを切ってヨーが発生するリズムにも、路面からシートを伝わって入るリズムにも、加速時にスロットルを開けてシフトアップするリズムにも、エンジンのレスポンスにも、その時の抜けたような排気音にも、すべてが軽快でアップテンポなリズムに仕上げたのだ。

この調教されたリズムが気持ち良く、ついついハンドルを握ると遠回りしてしまうのだが、このクルマには人をウキウキさせる力が備わっていたと自負している。

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要は街中をゆっくり走ってもスポーツカーでなければならない、ということだ。

最近は生活に潤いを与えてくれるクルマは勿論のこと、そういったモノにもなかなかお目に掛かれない。一度こういった哲学のあるクルマに乗ることをお勧めしたい。

『Austin Healey Sprite MarkⅠ』1958~1961年
  • エンジン=水冷直列4気筒OHV
  • 排気量=948cc
  • 内径×行程=62.9×76.2mm
  • 圧縮比=8.3:1
  • 出力=34hp
  • 変速機=4段MT
  • 全長×全幅×全高=3,490×1,350×1,260mm
  • 軸距=2,030mm
  • トレッド=F:1,160/R:1,140mm
  • 車両重量=660kg
  • サスペンション=F:Wウィッシュボーン+コイル/R:リジッド+リーフスプリング
  • ブレーキ=F:ディスク/R:ドラム
  • タイヤ=5.20-13

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