VIRGIN TRIUMPH | 6-2 みんなが憧れた『T120ボンネビル』 立花 啓毅さんのコラム

6-2 みんなが憧れた『T120ボンネビル』

  • 掲載日/2016年10月07日
  • 写真・文/立花 啓毅(商品開発コンサルタント)

我々がもっとも憧れたバイク、いや、世界中の若者を虜にしたバイクは、ターナー(第2世代トライアンフの設計者であり創業者の1人。現在のトライアンフは第3世代で、ブランド名のみを継承した組織である)が設計したトライアンフだった。まだトーハツやラビットが青い煙を吐き、陸王が白バイに使われていた時代だ。

引き締まった車体と高性能なバーティカルツインの佇まいは、周りの空気を変えるほど恰好よく、貧乏学生の分際では、高嶺の花でまったく手の届くものではなかった。

高嶺の花となったのは、映画の影響も大きく、そこに登場する格好いいシーンを観ては、多くの若者が妄想にふけったからだと思う。それはそうだ。マーロン・ブランドの「暴れ者」やスティーヴ・マックィーンの「大脱走」でトライアンフは大活躍するのだから。

映画そのものもアメリカが最も元気だった1960年代を映し出し、「暴れ者」はレースで勝ち取ったトロフィーをハンドルポストに括りつけ街中を暴走する。こんなシーンにくぎ付けになり、いつかはトライアンフを…と夢を広げていた。

夢を広げたのは、我々よりアメリカの若者が圧倒的に多く、トライアンフはプレスリーのロックンロールに乗って全米に広がり、イギリスの対米輸出は、記録的な数値を毎年更新する勢いだった。

そんな影響もあって私は、トライアンフだけでも何台も乗り継いできた。最初に手に入れた1948年型の500ccトロフィーは、その大分あとの1965年に発表されたホンダのCB450(クジラタンク)を寄せつけないほど速かった。

立花啓毅さんのコラムの画像

速さだけでなく、バーティカルツインのピックアップは官能を揺さぶり、鼓動はハラワタに染み渡った。そこには今のハイテクを駆使しても凌駕しえないものがある。

四角いアルミシリンダーから出た2本の排気管は1本にまとめられ、エンジンサイドを走らせている。それは実に格好よく、劈(つんざ)く排気音と共に言葉では言い表わせない官能の世界を持っていた。今の設計者に知って欲しいのは、エンジンは官能的でなければならないということだ。

その少し後に入手したのが、T120ボンネビルだ。さらにトロフィーも知人から譲って頂いた。エンジンは共に排気量650cc、OHV2気筒のタイガー110をチューンナップしたもので、ボンネビルは46馬力を発揮した。

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リッター当り50馬力の時代に70馬力もあり、また中速トルクも太かったため、どこを走っても敵なしの韋駄天走りだった。当時の白バイは、陸王(750ccのサイドバルブ)からメグロのK1(500ccのツイン)に移行する時代だったため、そんなトラには手も足も出なかったようだ。

群を抜いた性能と凛々しい姿は、国産車は勿論のこと他の輸入車とも比較にならないほどの魅力を備えていた。そんなこともあってか、このボンネビルとトロフィーは、長いトライアンフの歴史の中で頂点を飾ったのだ。

T120というのは最高速度が120マイル(193km/h)出ることを示したもので、如何に高性能であるかを誇示したのだ。当時はジャガーもXK120、140、150と最高速をそのまま車名にする時代だった。こういったターナーの商品戦略は、ジャガーの創業者ウイリアム・ライオンズに通ずるところがある。対米輸出を重視し、高性能なエンジンを流麗な車体に積み、アメリカ人好みの派手なカラーリングを施した点だ。

いわゆるアメリカ人が好む英国車らしさに仕上げたのだ。さらにジャガーは低価格路線を引いたため売れに売れまくり、イギリス経済が潤うほどの大々成功を収めた。そのため生粋の英国車ファンには、両車とも毛嫌いされることもあった。

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話を元に戻し、数多いトライアンフの中でも秀逸なのは、このハイパワーなボンネビルではなく、前述のハブクッションを持った48年の500ccトロフィーと言える。パンチのあるエンジンは勿論のこと俊敏なピックアップを持ち、しかも滑らかなため最も気持ちの良いバイクだと言える。恐らくボア・ストロークやクランクなどのバランスが最も優れていたものと思う。

貧乏学生の私は安いトラを探し、それを直しながら乗っていた。幾度となくエンジンをバラしているうちにツボが見えてきて、そこに手を加えると、とてつもなく速くなる。

タイガー110のエンジンは、そのままでも充分に速いが、チューンするとCB750より速くなる。OHVの650がOHCの4気筒より速くなるのだから痛快そのものだ。それが『2-4 クラシックレースでトップを飾る』でご紹介したトライトンである。

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私自身多くのトライアンフに乗ってきたのは、単に高性能というのではなく、そこには五感を刺激する魅力があるからなのだ。

『TRIUMPH T120 BONNEVILLE』1959~1989年
  • エンジン=空冷並列2気筒OHV2バルブ
  • 排気量=649cc
  • 内径×行程=71×82mm
  • 圧縮比=8.5
  • 出力=46ps/6,500rpm
  • 変速機=4速
  • 最高速度=177km/h
  • 車両重量=183kg
  • フレーム=クレードル型
  • サスペンション=F:テレスコピック/R:スイングアーム

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